コロナワクチンの特定ロットで致死率100%? そのようなデータはない【ファクトチェック】

コロナワクチンの特定ロットで致死率100%? そのようなデータはない【ファクトチェック】

新型コロナウイルスのワクチンをめぐって「特定ロットのワクチンを接種した人は全員死亡」という情報が拡散しましたが、誤りです。国や自治体のデータに、そのような結果は出ていません。

検証対象

2025年3月4日、「即日死亡❗️❗️致死率100%のロットが存在」という情報が、議員が質問する様子の画像とともに拡散した。画像には「ロット番号ET3674を1回打った方 33人中33人が全員亡くなっております」と書かれている。

この投稿には動画のリンクがついており、「2025.3.3 千葉県 流山市議会 うた桜子」というテロップがついている。動画の中で女性が「浜松市では全データが公開されたんですけれども、75歳以上というところに区切りますと、ロット番号ET3674を1回打った方33人中33人が全員亡くなっております」「また1回目にET3674、2回目にEY2173の組み合わせを打った、これも75歳以上の方も今、現時点では全部亡くなっています」などと発言している。

4月9日現在、この投稿には390万以上の閲覧と2300件のリポストがある。「これぞ人体実験」「これ本当なら殺人事件だろ」といったコメントのほか「高齢者から順番に打っていったんだから、年齢高い人ばかり33人だったら死んでてもおかしくないんだよなあ」という指摘がある。

検証過程

拡散した動画のテロップにある「千葉県流山市議会」は動画を公開している。拡散したのは、2025年3月3日に市議会で宇田桜子市議が質問した動画の一部(流山市議会 38分25秒頃〜)だとわかった。浜松市の事例を取り上げた部分は計30秒間で、動画は改変されていないが、字幕が加えられている。

浜松市に情報公開請求

投稿や動画に出てくる「ロット番号」とは、同じ場所・同じ工程で製造された製品のことで、品質管理のためにそれぞれ番号がつけられている。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、宇田市議が質問で言及した浜松市に情報開示請求をして、市民のワクチン接種データ(2021年2月1日〜2024年6月30日)を入手した。

公開されたデータは、個人が特定されないようにワクチン接種者のデータが番号で管理されている。接種者の年代(5歳刻み)や接種日、接種回数、ワクチンのメーカー名やロット番号、亡くなっている場合は死亡日が書かれている。

データをまとめている浜松市健康増進課に取材したところ「死亡日は、ワクチン接種後になんらかの理由で亡くなり、死亡届が提出された戸籍のデータから日付を自動的に取得している」「接種後に亡くなった方の死因は、医療機関が死亡届に記入している。市では分析していない」という。

2021年2月1日から2024年6月30日まで、浜松市内でコロナワクチンを1回以上接種したのは65万9382人。接種者全員が亡くなったロットはなかった。

では、なぜ「全員死亡」という主張が出てきたのか。

「ET3674を1回だけ打った33人が全員死亡」は事実

浜松市のデータを分析すると、ET3674を1回だけ接種した33人は、確かに接種後6日から1年3ヶ月後までに全員が死亡している。内訳は75〜99歳が32人、70〜74歳が1人の計33人。宇田市議の「浜松市で75歳以上でロット番号ET3674を1回打った33人中33人が全員死亡」という主張は、年齢がやや違うところを除けば事実だ。

ET3674のワクチンは高齢者の接種が始まったばかりのころに使われ、浜松市では2021年4月17日から6月11日の間に5482人に接種した。そのうち亡くなったのは今回注目された33人(4月20日-5月18日に接種)を含む269人。つまり、このロットのワクチン接種者全員が亡くなったわけではない。

国内でのコロナワクチンの接種は、2021年2月から医療従事者を対象に始まり、同年4月12日から65歳以上の高齢者も対象になった(国立感染症研究所)。初期のワクチン接種者は高齢者が多いため、2回目を打つ前に様々な理由で亡くなる人がいた。

「因果関係が否定できない」2件は浜松市以外

ワクチン接種後に死亡し、「副反応によるものかもしれない」という事例は、医療機関が厚労省所管の医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告する。これはワクチンとの因果関係ははっきりしないが「少しでも可能性がある」という事例だ。

浜松市健康増進課によると、浜松市の「副反応疑いで死亡」は18件。この18件の母数は、すべてのロットの接種者(65万9382人)だが、ET3674を打った後に亡くなった33件より少ない。

ET3674は浜松市以外でも使われている。厚労省によると、2024年3月30日までの国内の新型コロナワクチンの接種回数は合計4億3619万3341回(厚労省2024年4月1日公表)。このうちET3674は、全体の0.0015%に当たる64万7010回分が全国へ出荷された。

すべての接種者のうち、副反応疑いで報告された死亡者数は、2021年2月~2024年9月30日に全国で2262件(厚労省)あり、このうちET3674の接種者は11件だった。

また、厚労省によると、全国の2262件の詳細を調べて「ワクチン接種との因果関係が否定できない」と発表したのは2件(2024年10月25日まで)だ(厚労省)。

この2件についてJFCが確認したところ、ロット番号は「ET3674」ではないという(厚労省)。厚労省は自治体名など詳細を公表していないが、徳島県と愛知県だと報じられている(NHK朝日新聞日経新聞など)。

1回目ET3674、2回目EY2173の接種者は2881人、死亡者は79人

動画で宇田市議は「1回目にET3674、2回目にEY2173を接種した75歳以上も全員死亡」とも発言している。

しかし、浜松市のデータによれば、この組み合わせで接種した人は2881人で亡くなった人は79人。75歳以上に限定すると、接種者は541人で死亡者は76人。これらのロットの組み合わせで75歳以上の接種者がすべて死亡したという事実はない。また、これらの死亡者もワクチンとの因果関係が示されているわけではない。

判定

新型コロナワクチンの特定のロットで、接種者全員が亡くなったという情報は、誤り。拡散した投稿が主張する浜松市の場合、ロット番号「ET3674」のワクチンを1回だけ接種した33人が全員亡くなっているが、ET3674を1回以上接種した浜松市民は5482人で、その後に亡くなったのは269人。また、これらの死者はワクチンとの因果関係が示されたわけではなく、国が「ワクチンとの因果関係が否定できない」と判断したのは全国に2件。いずれもET3674を使っていない。

あとがき

新型コロナワクチンの特定のロットで接種者全員が死んだ、死亡率が異常に高いなどの情報がたびたび拡散しています。

初期に出荷されたロットのワクチンは、医療従事者に続いて、高齢者に接種されました(国立感染症研究所「新型コロナワクチンについて」)。ワクチン接種開始から3年以上が経過して、その間に持病や高齢で亡くなる人は、若い世代よりも多くなることに留意する必要があります。

JFCでは、これまでもロットによって接種者全員が亡くなっているという情報を検証して、誤りと判定しています。

川田議員「コロナワクチンで接種者全員が亡くなったロットがある」? そのようなデータはない【ファクトチェック】(修正あり)
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検証:宮本聖二
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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