「自閉症の子どもの増加は母親と接する時間が減ったから」? 専門家も否定する俗説【♯衆院選ファクトチェック】

「自閉症の子どもの増加は母親と接する時間が減ったから」? 専門家も否定する俗説【♯衆院選ファクトチェック】

2026年2月8日投開票の衆議院選挙で、参政党から立候補している先沖仁志氏(神奈川14区)が「自閉症の子供が増えている原因が、0~3歳までに母親が接する時間が関わっているという研究結果がある」という趣旨の発言をしました。自閉症の原因が母親の育て方にあると示唆する発言ですが、誤りです。これは過去にも拡散している俗説で、専門家も明確に否定しています。また先沖氏も「根拠のない発言だった」とXで謝罪しました。

検証対象

拡散した言説

2026年1月27日、参政党の先沖氏が街頭演説で、「(子どもの)自閉症の原因はお母さんが長く接しているかが関わっているという研究結果がある」と主張した。

検証する理由

参政党関係者は過去にも「発達障害など存在しない」「ワクチンは殺人兵器」など、医療健康に関する誤った主張を繰り返している(日テレNews”参政党の公約に…医師らの団体が抗議 書籍内容めぐり日本自閉症協会も声明【それって本当?】”2025年7月19日、朝日新聞”結党5年の参政党とは 秘密裏に社会動かす「影の政府」、代表が主張”2025年7月16日)。

この発言に関し、地元の神奈川新聞が専門家への取材をもとに「根拠欠く発言」と記事にした(神奈川新聞”参政党の先沖氏、自閉症巡り根拠欠く発言 専門家は批判『差別意識が根底』2026年2月3日)。

先沖氏は2月3日、自身の公式Xで「この度は、私の根拠のない発言で不快な思いやご迷惑、ご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます」と謝罪。根拠が無いことを認めた。しかし、同様の主張はネット上で繰り返し広がっている。選挙の公認候補の発言は影響力が大きいことから検証する。

検証過程

先沖氏の発言は

2026年1月27日、先沖氏は神奈川県内での街頭演説で、次のように述べた。

「今までもうとにかく、働く女性を支援しよう、政府が進めてきた結果、結局、共働きでないと暮らしていけない世の中になってしまった。しかしながら、私たち参政党は、このいきすぎた母子分離政策というものに大きく大きく反対の声を上げている唯一の政党です。いま、日本でもそうです。世界中でも自閉症の子供たちも増えてる。これ、大きな原因が、小さい子、0歳から3歳までにお母さん、いかに長く接しているか、これが関わっているんだという研究結果もあるんです」(反撃の日本”【第一声】先沖仁志 参政党公認候補 神奈川14区 2026.1.27 橋本駅前 #衆議院選挙 #参政党 #参政党街頭演説 #先沖仁志 #神奈川14区 #ひとりひとりが日本”)

自閉症児増加の理由

自閉症について、ワクチンや母親との接し方が原因などという情報は、繰り返し拡散しており、日本ファクトチェックセンター(JFC)は過去にも検証している。

2025年2月に日本の自閉症・アスペルガー症候群など「自閉スペクトラム症(ASD)」を取り巻く状況について、信州大学医学部の本田秀夫教授に取材した内容を再掲する。

本田教授は、信州大学医学部で「子どものこころの発達医学教室」教授や、医学部附属病院「子どものこころ診療部」部長を務める他、長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」のセンター長にも就いている。

本田教授「診断例は増えているが、単純に比べるわけにはいかない」

本田教授は診断例の増加について、次のように述べている。

「自閉スペクトラム症の診断例は増えているが、いくつか要因がある。最も大きな要因は、以前に比べて自閉スペクトラム症の概念が広くなったというものだ。以前は自閉スペクトラム症と診断されるのは症状が顕著で、知的障がいを伴うような患者が主だったが、現在、その数は増えていない。近年多く診断されるのは、表出する症状が少なく、知的障がいを伴わないケースだ」

「昔なら診断されないであろう人が診断されているというのが実情なのではないか。だから、昔の数と今の数を単純に比べるわけにはいかない」

また、診断例が増えるにつれて「あの人が診断されたから自分もそうなのではないか」と思い、受診に繋がるケースもあるという。(以上 JFC”ワクチンで自閉症の発生率が増加?トランプ氏が過去の誤情報を再び拡散【ファクトチェック】”)

「母親の育て方のせい」は多くの研究から否定されている

先沖氏は、自閉症の増加について、「0~3歳の子供が母親と接する時間が少ないことが大きな原因だという研究がある」と述べている。

子どもの自閉スペクトラム症の解説サイト「すまいるナビゲーター」に、本田教授も監修した資料が公開されている。次の記載の通りだ。

「自閉スペクトラム症になる原因は不明ですが、生まれつきの脳機能の異常によるものと考えられています。これまでの多くの研究から、親の育て方やしつけ方などが原因ではないことがわかっています」
(すまいるナビゲーター 自閉スペクトラム症ブックレットシリーズNo1. 子どもの自閉スペクトラム症ABC~特性を知って付き合っていこう~p3)

判定

参政党・先沖仁志氏が、自閉症児増加の大きな原因が母親の育て方にあると示唆する発言をした。過去にも拡散している俗説で、専門家も明確に否定している。先沖氏自身も「根拠の無い発言」と謝罪している。よって、誤りと判定する。

出典・参考

日テレNews.”参政党の公約に…医師らの団体が抗議 書籍内容めぐり日本自閉症協会も声明【それって本当?】”2025年7月19日.
https://news.ntv.co.jp/category/politics/42e3baf8438c422c922f1df2fa96b2b7,(閲覧日2026年2月6日).

朝日新聞.”結党5年の参政党とは 秘密裏に社会動かす「影の政府」、代表が主張”2025年7月16日.
https://digital.asahi.com/articles/AST7H1CH9T7HUTIL008M.html,(閲覧日2026年2月6日).

神奈川新聞.”参政党の先沖氏、自閉症巡り根拠欠く発言 専門家は批判『差別意識が根底』”.
https://www.kanaloco.jp/news/government/electiondata/article-1244833.html,
(閲覧日2026年2月6日).

反撃の日本.”【第一声】先沖仁志 参政党公認候補 神奈川14区 2026.1.27 橋本駅前 #衆議院選挙 #参政党 #参政党街頭演説 #先沖仁志 #神奈川14区 #ひとりひとりが日本”.
https://www.youtube.com/live/-C9nj4oWTno?si=nmsXKzSLFH4LDaHl,(閲覧日2026年2月6日).

JFC.”ワクチンで自閉症の発生率が増加?トランプ氏が過去の誤情報を再び拡散【ファクトチェック】”.
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/health/false-vaccines-increase-autism/,(閲覧日2026年2月6日).

すまいるナビゲーター.”自閉スペクトラム症ブックレットシリーズNo1. 子どもの自閉スペクトラム症ABC~特性を氏って付き合っていこう~”p3.
https://www.smilenavigator.jp/asd/download/pdf/ABC_20190419b.pdf,(閲覧日2026年2月6日).

検証:根津綾子
編集:藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

パリで移民2世、3世が暴動? 連覇を祝うサッカーファンの動画【ファクトチェック】

パリで移民2世、3世が暴動? 連覇を祝うサッカーファンの動画【ファクトチェック】

「パリのいま 移民の2世、3世による暴動 移民国家の末路を見る」という投稿がThreadsで拡散しましたが、誤りです。映像は2026年5月にフランスのサッカーチームが欧州のチャンピオンズリーグで連覇を果たした際のファンの様子を撮影したものです。 検証対象 拡散した投稿 2026年5月31日、「パリのいま 移民の2世、3世による暴動 移民はもういらん」という動画付き投稿がThreadsで拡散した。 動画には興奮した人々が、花火をあげたり信号に登ったりする様子が映っている。 検証する理由 この投稿は1万件以上いいねがあり、1200件ほどリポストされている。「パリサンジェルマンが勝っての騒ぎでしょ。移民関係ないから」「サッカーの盛り上がりですよね」というコメントの一方で、「世界中で国文化を壊した移民ビジネス」「誰もとめる人もいない。狂ってますね」と誤解したコメントもあるため検証する。 検証過程 動画には広場のような場所に集まった人々が花火を打ち上げる様子が映っている。Googleレンズで検索すると、5月31日にYouTubeやXに投稿された動画が見

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
スイスが世界で初めてマンモグラフィを禁止? 該当する発表はなく、当局は否定【ファクトチェック】

スイスが世界で初めてマンモグラフィを禁止? 該当する発表はなく、当局は否定【ファクトチェック】

乳房X線検査マンモグラフィを、スイスが世界で初めて禁止したと主張する投稿が拡散しましたが、誤りです。そのような発表はなく、スイス当局はJFCの取材に対して「50歳以上の女性に対し推奨している」と述べています。 検証対象 拡散した言説 2026年6月3日、「速報:スイスが世界で初めてマンモグラフィ禁止の国になった―世界的な医療スキャンダルが白日の下にさらされた!」などと主張する英語の投稿がXで拡散した。 検証する理由 6月8日現在、投稿は7500回以上リポストされ、表示は59.4万件を超える。 投稿には「出典は?」や「スイスはマンモグラフィを禁止していません」などの指摘もあるが「神に感謝します。私は何年も前からこう言ってきました」「サーモグラムはマモグラムよりもはるかに安全」など真に受けた反応も多い。 同様の主張は、日本語でも拡散している(例1、2、3)ため検証する。 検証過程 拡散した投稿は 拡散した投稿の自動和訳は次の通りだ。 「🚨 速報: スイスがマンモグラフィを禁止する世界初の国に — 暴露されたグローバルな医療スキャンダル!

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
「真理省はいらない」認知戦への対策は/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

「真理省はいらない」認知戦への対策は/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

1週間のドイツ滞在を終えて、帰国の途についています(その関係で今週もニュースレターの配信が一日遅れてしまいました)。 公共放送含む大手メディア、ファクトチェック団体、メディアリテラシー団体、政府機関など、様々な立場の専門家と偽・誤情報の現状と対策について議論しました。中でも話題の中心となったのは、ロシアからの認知戦の現状です。 ドイツで著名な事例と言えば、ドッペルゲンガー作戦です。ドイツの大手メディアのサイトを模倣したサイトが大量に作られ、偽記事をSNSで拡散させるという手口でした。CORRECTIVの調査報道などでその実態が明らかとなっています。 政府もこれらの現状に対して、外国からの影響工作に対する備えを強化しています。その動きは国家情報局を設置する日本にとっても参考になるでしょう。 印象的だったのは「ドイツはバルト3国や北欧などと比べて認知戦への対応が遅れた」という言葉です。海外からの影響工作について、ロシアの行動を明らかにする報道や政府対応などを見ると、日本よりもかなり先行しているように見えますが、自己評価は違うようです。 「真理省はいらない」という声も聞

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
経営ビザ取得者の「9割が不正」? 疑いがある事業者に対する調査【ファクトチェック】

経営ビザ取得者の「9割が不正」? 疑いがある事業者に対する調査【ファクトチェック】

厳格化された経営・管理ビザについて「外国人事業者の内9割が、経営実態のない会社、日本への移住目的、高度医療を受けるため悪用していた」という投稿がXで拡散しましたが、不正確です。全体の9割が不正だったかのように読めますが、不正が9割というのは「疑わしい事業者約300件を対象にした調査結果」で、経営ビザ取得者の9割という意味ではありません。 検証対象 拡散した投稿 2026年5月10日、「経営・管理ビザの厳格化により申請が96%減少。また既存の会社を調査した結果、9割が不正。つまり外国人事業者の内9割が、経営実態のない会社、日本への移住目的、高度医療を受けるための悪用していた」という投稿がXで拡散した。投稿は、ニュース番組の動画も添付している。 検証する理由 6月2日現在、この投稿は1万回以上リポストされ、表示回数は66万回を超える。投稿について、「『9割が不正』は扱いに注意がいる」という指摘もあるが、「9割不正って大問題ですよ」「これが外国人が集まる理由」などと誤解しているコメントも多いため、検証する。 検証過程 経営・管理ビザの厳格化 政府

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は6月27日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0627.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)