プレジデントが「コロナワクチンで50万人死んでいる」と掲載? 記事の内容は正反対【ファクトチェック】

プレジデントが「コロナワクチンで50万人死んでいる」と掲載? 記事の内容は正反対【ファクトチェック】

プレジデント社が「コロナワクチンで50万人死んだ」と報じたと主張する投稿がXで拡散しましたが、誤りです。記事は、SNSで拡散したワクチン反対派の意見を検証し、専門家の「論理の飛躍がある」「科学的根拠が不十分」などの意見を元に、拡散した投稿と正反対の内容です。

検証対象

8月25日、「プレジデントによるとコロナワクチンで50万人死んでる!すごい猛毒を日本政府が勧めた!」という投稿がXで拡散した。

8月27日現在、投稿は3300回以上リポストされ、表示は38.4万件を超える。投稿には「毒殺が普通に行われるのか 普段食べてるものも怪しい」「ワクチン2回打ちましたが、3回目打ったら死ぬんじゃないかと思い辞めました」や「文章読めます?内容真逆ですけど」という指摘もある。

検証過程

拡散した投稿のリンクはPRESIDENT Onlineが2025年1月18日に公開した記事だ(PRESIDENT Online”『コロナワクチンで50万人が死亡』『日本で人体実験している』…反ワク派の主張を専門家と徹底検証した結果”)。

SNSで拡散した「超過死亡数の大半はワクチンが原因」「mRNAワクチンのスパイク蛋白は危険」などのテーマについて、専門家に取材。どの言説も科学的根拠が不足していたり、論理が飛躍していたりすると結論付けている。

「50万人の超過死亡」については、記事の中でワクチンに反対して厚生労働省に抗議するデモに参加していた長尾和宏医師の発言であると紹介している。

記事では長尾医師に数字の根拠を取材し、過去3年間の超過死亡の9割以上がワクチン関連死という「推定」であると示している。そのうえで、大阪大学免疫学フロンティア研究センター・宮坂昌之招へい教授にも取材し、50万人の超過死亡はワクチンが原因という主張は「論理が飛躍している」という指摘を紹介している。宮坂教授は次のように語っている。

「ワクチン接種と超過死亡がよく重なったのは、7回の定期接種のうち1回のみでした。“超過死亡説”が本当なら、接種のたびに超過死亡が起きたはずです。したがって超過死亡はワクチンではなく、新型コロナ感染症によって起きた、と考えるべきでしょう」

つまり、拡散した投稿と正反対に記事は「コロナワクチンで50万人が死亡した」という主張を明確に否定している。

判定

プレジデント社が「コロナワクチンで50万人死んでる」と報じたと主張する投稿がXで拡散したが、元になった記事は、その主張を明確に否定する内容だ。よって、誤りと判定する。

出典・参考

岩澤倫彦.PRESIDENT Online”.『コロナワクチンで50万人が死亡』『日本で人体実験している』…反ワク派の主張を専門家と徹底検証した結果”.2025/01/18. https://president.jp/articles/-/90457 ,(閲覧日2025年8月27日).

検証:根津綾子
編集:藤森かもめ、古田大輔


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