ファクトチェック:「コロナワクチン、23年度は『秋冬に全員接種』」は誤り

ファクトチェック:「コロナワクチン、23年度は『秋冬に全員接種』」は誤り

「2023年度の秋冬にはコロナワクチンを全員に接種する」という趣旨の言説が拡散していますが、これは誤りです。実際には「接種の機会を確保する」という方針です。

検証対象

「現代版の大塩平八郎の乱が、起きるんじゃねーの?」というコメントと共に、「日刊薬業 コロナワクチン、23年度は『秋冬に全員接種』厚労省部会で方針決定」という画像を共有したツイートが拡散した。表示件数は2月13日現在で33万件を超えている。

画像

リプライ欄には「拒否できないの…」「強制するな」など、強制的に全員が接種させられると受け止めているコメントが見られる。一方で、「厚労省のHPには機会を確保と書かれている」と指摘する声もあった。

検証過程

拡散しているツイートに添付されている画像は、医療業界専門メディア「日刊薬業」が2023年2月8日に掲載した記事の見出し部分。当初はこの見出しだったが、ネット上で「全員に強制するのか」という反応が出た後、「コロナワクチン接種、23年度は『全ての人に機会確保』厚労省部会で方針決定、秋冬に実施」という見出しに変更された。

記事の最初には次のように書かれている。

新型コロナワクチン接種に関する今後の方針が8日、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会で固まり、2023年度は重症化リスクの有無を問わず全ての人に機会を確保し、秋冬に接種することとされた。
厚生労働省が示した方針は、23年度については、これまでの知見を踏まえ、重症化リスクが高い人を対象とするものの、それ以外の全ての人に対しても接種機会を確保することが望ましいとした。

この記事の元になっているのは、第52回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会(2023年2月8日)。その資料「2023年度以降の新型コロナワクチンの接種の方針について」には、「2023 年度に行う接種においては、重症者を減らすことを第一の目的とし、重症化リスクが高い者を対象とするが、それ以外の全ての者に対しても接種の機会を確保することが望ましい」という記述がある。

「秋冬」であることに関しては、「流行開始以降、年末年始周辺に比較的多くの死者数等を伴う流行を認めている。ここから、少なくとも年末年始には接種の有効性を発揮する必要がある」と説明されている。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は厚労省予防接種室に問い合わせた。資料にある通り、あくまで「接種の機会の確保」であり、強制接種はしないという。

判定

以上のことから、新型コロナワクチンを2023年度の秋冬に全員に強制接種というような言説は誤り。

あとがき

ネット上の記事の見出しは予告なく変更されることがあります。また、記事の見出しをもとに故意にミスリードな言葉をつけて拡散させる手法もあります。見出しや記事を紹介する言葉だけではなく、元記事を辿ってみることが大切です。

検証:金子祥子
編集:古田大輔

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

日本ラグビーフットボール選手会の偽アカウントが出現 関係者投稿にツリーで紛れ込む

日本ラグビーフットボール選手会の偽アカウントが出現 関係者投稿にツリーで紛れ込む

日本ラグビーフットボール選手会の偽のX(旧Twitter)アカウントが出現しています。公式アカウントが注意を呼びかけています。 公式アカウントの画像を利用した偽アカウント 日本ラグビーフットボール選手会を装ったXアカウントが存在している。アカウント名、プロフィール、ヘッダー画像に大きな違いはないが、偽アカウントはプロフィール欄の記載がなく、LINEのリンクが貼られているのみだ。 関係者の投稿にツリー形式で投稿 偽アカウントは、元ラグビー選手の今野達朗氏や日本ラグビーフットボール選手会の投稿にリプライ形式でLINE登録と投資を促す投稿をしている。以前日本ファクトチェックセンター(JFC)でも紹介したリプライ欄に紛れ込む手口だ。 ID・フォロワー数で見分ける 公式アカウントのIDが「JRPA_info」であるのに対し、偽アカウントは英数字の羅列になっている。また、2024年5月16日現在、公式アカウントのフォロワー数は1.9万人だが、偽アカウントは2人だ。 公式アカウントが注意喚起 日本ラグビーフットボール選手会のX公式アカウントは、「偽アカウントにご注

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
「NATO各国首脳がウクライナの政策に失望しているとBBC報道」は誤り 捏造された動画【ファクトチェック】

「NATO各国首脳がウクライナの政策に失望しているとBBC報道」は誤り 捏造された動画【ファクトチェック】

NATOがウクライナの政策に不満を抱いているというBBCニュースを装った映像が拡散しましたが、誤りです。ニュースの引用元とされた欧州の調査報道機関べリングキャットの創設者が「偽物だ」と否定しています。 検証対象 2024年5月14日、ロシア発のSNSテレグラムに、BBCのロゴとタイトルをつけたニュース映像が拡散した。動画は1分45秒で、NATO各国とウクライナの間で戦闘への動員などを巡って意見が対立していると主張している。ニュースソースは「ベリングキャット」としている。 動画のキャプションにはロシア語で「NATOがウクライナの戦闘動員に不満を抱いている」と書かれ、13万6000を超える閲覧と1600以上のいいねを獲得している。 検証過程 検証対象の動画がテレグラムに投稿された翌日の5月15日、べリングキャットの創設者エリオット・ヒギンズ氏が、自身の公式Xで、拡散した動画は偽物だと投稿した。「BBCとべリングキャットの偽動画が、またテレグラムで拡散している。2023年11月以降、これで少なくとも7本目だ」と指摘している。 誤・偽情報や映像などを検証する

By 宮本聖二
「韓国のソウル金浦空港には日本語の表示がない」は誤り 各所に案内表示がある【ファクトチェック】

「韓国のソウル金浦空港には日本語の表示がない」は誤り 各所に案内表示がある【ファクトチェック】

「韓国のソウル金浦空港には日本語の表示がない」という言説が拡散しましたが、誤りです。金浦国際空港には、日本語の案内表示が各所にあります。 検証対象 2024年5月7日、「『国際線出国ゲート』日本の成田空港にはハングルの案内があるが 韓国のソウル金浦空港に日本語の案内は無い」という投稿が、空港内とみられる2つの写真とともに拡散した。この投稿は2024年5月15日現在、30万回以上の表示回数と1800件以上のリポストを獲得している。 検証過程 投稿にある写真をGoogle画像検索(写真1、写真2)で検索したところ、写真1(エスカレーター頭上の案内表示)は旅行代理店サイトにある成田空港第1ターミナル地下1階エスカレーターの写真と一致した。写真2は金浦空港の保安検査場の入り口だとわかった。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、金浦国際空港に日本語の表示があるかどうかをGoogle Mapを使って調べた。 Google Mapの検索窓に金浦国際空港を入れて検索すると12000枚あまりの写真が出てくる。そのうち空港内の表示を見ると、韓国語のほか、英語、中国

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
(動画)「米軍機を追い払うロシアの戦闘機」は誤り シミュレーションゲームの映像【ファクトチェック】

(動画)「米軍機を追い払うロシアの戦闘機」は誤り シミュレーションゲームの映像【ファクトチェック】

「米空軍のSR-71ブラックバードを追い払うロシアのSu-27戦闘機2機」という動画が拡散しましたが誤りです。動画はゲームをもとに作成されたものです。 検証対象 2024年5月、「米空軍のSR-71ブラックバードを追い払うロシアのSu-27戦闘機2機」という動画が拡散した。動画には米空軍の偵察機SR-71にロシアの戦闘機2機が接近する様子が映っている。 拡散した言説はロシアの外務省情報局長を名乗る人物のアカウントがXに投稿し、現在は削除されている。その後、別のアカウントから同じ文言と動画を使った言説が投稿されている。 検証過程 拡散した言説にある戦闘機の名称「SR-71」と「Su-27」でGoogle検索すると、2024年5月7日に投稿されたYouTubeの動画がヒットする。Xで拡散した動画と同じものだ。 動画の概要欄には「Created with DCS」と明記されている。DCSとは、ロシア人が設立したソフトウェア会社「Eagle Dynamics」のDigital Combat Simulatorというフライトシミュレーションゲームの略称だ。拡散

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)