中国で安く作られている「プラスチック米」の映像? 穀物由来の「人工米」製造動画【ファクトチェック】

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「中国で作られたプラスチック米」だとして、人工的に米をつくる動画が拡散しましたが、誤りです。動画は中国の食品機械メーカーが投稿したもので、米やとうもろこし、キビなどの穀物粉を主原料に成形した「人工米」の製造風景です。塩化ビニールなどの樹脂で作られ、2010年代にインドネシアやナイジェリアに混入したとされる米粒状の「プラスチック米」ではありません。この動画は、2024年にも拡散し、「誤り」と検証されています。

検証対象

2025年3月24日、「中国で作っているプラスチック米だ」として、粉を使って米をつくっている動画が複数拡散した(投稿1投稿2)。

投稿はいずれも数千件から数万回のリポストを獲得するなど広く拡散している。「わざわざこんな機械製造して生産してるのか。恐ろしい国だ」「消化されずに体外に排出されるだけならマシですが、4んだり消化器系にダメージがあるなら論外」などのコメントが付く一方で、とうもろこしを原料にしているとの指摘もある。

検証過程

中国産の米による「プラスチック米」騒動とは

2015年6月11日、産経新聞が現地メディアの話として、同年5月にインドネシアで中国産とみられる米に塩化ビニールで作られた米粒状の「プラスチック米」が混入していたと報じた(産経新聞)。

中国政府は否定し(人民網)、インドネシア国家医薬品食品監督庁(BPOM)も2015年5月29日に発表したプレスリリースで、プラスチックを混入した可能性がある米を調査した結果、陰性だったことを公表している。

また、2016年12月にはナイジェリアで「中国から密輸されたプラスチック製の偽米を当局が押収した」とのニュースが報じられたが(AFP通信)、ナイジェリア食品医薬品管理局(NAFDAC)の分析によって、中身は本物の米だったものの微生物に汚染されていたと報じられている(AFP通信)。

拡散した動画は米粉と穀物を原料とする「人工米」の生産風景

日本ファクトチェックセンター(JFC)が拡散した動画をGoogleレンズで画像検索したところ、中国の食品機械メーカー「SUNPRING」が2022年2月にYouTubeへ投稿した「Artificial Rice Making Machine Fortified Rice Machine Nutritional Rice Machine(人工米製造機 栄養強化米製造機 栄養米製造機)」という動画と一致した。

動画の概要欄やSUNPRING社の公式サイトに記された説明によれば、人工米とは割れた米やとうもろこし、キビ、麦などの粉を成形して作る。塩化ビニールなどの樹脂やプラスチックで作るものとは全く異なる。

海外でも過去に拡散、ファクトチェック済みの動画

今回拡散した動画は、2024年5月にブラジルで水害が起きた時にも拡散した。穀物不足を懸念したルーラ大統領は最大100万トンの米を輸入すると発表(ブラジル大統領府日本経済新聞)。そのタイミングでX上では、「中国から輸入される米はプラスチックでできている」という主張が拡散した。

AFP通信ポルトガル版は2024年5月25日にファクトチェック記事を公開。動画に映っているのは砕いた米を主原料に人工米を製造する機械だというSUNPRING社広報担当のコメントを引用しながら「誤り」と判定している。

判定

「中国で作られたプラスチック米」との主張とともに拡散した動画は誤り。米や穀物を原料に人工米を製造する様子を映したもので、プラスチック製の米ではない。

検証:リサーチチーム
編集:宮本聖二、藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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