円安で自殺が減り、円高で自殺が増える? 為替以外の要因で増減【#衆院選ファクトチェック】

円安で自殺が減り、円高で自殺が増える? 為替以外の要因で増減【#衆院選ファクトチェック】

嘉悦大教授・高橋洋一氏がXで「円安で自殺が減り、円高で自殺が増える」と示唆する投稿をしましたが誤りです。自殺者数の減少は長期的なトレンドで、円高で自殺が減った時期もあります。自殺の増減には様々な要因が関係しており、為替で決まるわけではありません。

検証対象

拡散した言説

2026年2月1日、高橋氏は自身のXアカウントで「為替の力を甘く見ない方がいいよ。円安と自殺減は同時にくるし、円高と自殺増も同じ」という文言付きで、為替と自殺者数の推移を示すグラフを投稿した。

検証する理由

2月5日現在、投稿は1500回以上リポストされ、表示は215万件を超える。

投稿には「疑似相関では」「為替は関係ない」などの指摘が多いが、「高橋先生、やたら叩かれていますね💦なんか動員かかってますね」や「直接相関がなくても間接相関『為替→景気→雇用→自殺者』で、それは十分重要な指摘」などのコメントもある。

円安は衆院選の論点の一つとなっている。高橋氏は菅義偉政権で経済・財政政策の内閣官房参与を務めており、選挙への影響も考えられることから、検証する。

検証過程

為替と自殺者数の関係は時期によって変わる

高橋氏は、2010~25年のドル円レートと自殺者数を示した折れ線グラフを投稿している。グラフには「相関係数 ▲0.76」と書いてある。相関係数は2つのデータの関係を示す指標で、値が1に近いほど正の相関、-1に近いほど負の相関が強い。0に近いほど相関は弱い。

「相関係数▲0.76」は「-0.76」を意味し、統計学的に「強い負の相関」を示している。つまり、このチャートで言えば、「円安が進むほど自殺者が減る」という関係だ。日本ファクトチェックセンター(JFC)も日本銀行「時系列統計データ検索サイトと、警察庁「自殺者数」、厚生労働省「令和6年中における自殺の状況」をもとに計算したところ、ほぼ同様の結果が出た。

しかし、比較する期間を変えると結果は異なる。1990~2009年の相関は弱く、円高が顕著だった2004~2013年は高橋氏の主張どおりなら自殺者数が増えるはずだが、32,325人から27,283人へと逆に減っていた。

自殺の原因・動機は多岐にわたる

厚生労働省は毎年、自殺者数や原因・対策などを白書にまとめている。最新の「令和7年版自殺対策白書」には、次のような記載がある。

「原因・動機別にみると、『健康問題』が12,029件と最も多く、『経済・生活問題』(5,092件)、『家庭問題』(4,297件)が続いた」

「職業別にみると、『無職者』が10,800人と最も多く、次いで『有職者』(8,092人)、「学生・生徒等」(1,077人)が続いた」(以上、厚生労働省”令和7年版自殺対策白書”p21)

つまり、自殺の原因や動機は多様で、為替や経済にとどまらない。

自殺対策支援NPO「自殺者数の減少は長期的なトレンド」

JFCはNPO法人「自殺対策支援センターライフリンク」の清水康之代表に取材した。清水氏は次のように話した。

「自殺者数は2010年以降、長期的な減少トレンドに入っている。ちょうど円安の時期と重なっているのでそこだけ見れば相関しているようだが、実際には円高の際に自殺者が減っている時期もある」

「2010年以降の自殺者の減少は、2006年に施行された自殺対策基本法の影響が考えられる。法律に基づいて全国の自治体に対策が広がり始めたのが2010年頃で、その効果もあるだろう」

「自殺者数の3分の1を占めるのは中高年男性で、失業率と相関が強いことが指摘されている。円安で輸出産業が好調になり、失業率が改善すれば、自殺者数の減少に影響がないとは言えないが、為替だけで決まる話ではない。『円安で自殺減、円高で自殺増』と一般化するのは明確に誤りだ」

判定

嘉悦大学教授・高橋洋一氏がXで「円安で自殺が減り、円高で自殺が増える」と示唆する投稿をした。為替レートと自殺者数には、時期によっては強い相関が見られるが、自殺者数は複雑な要因に左右される。よって、誤りと判定する。

出典・参考

日本銀行.”時系列統計データ検索サイト”.
https://www.stat-search.boj.or.jp/#,

警察庁.”自殺者数”.
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html

厚生労働省.”令和7年版自殺対策白書”.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/jisatsuhakusyo2025.html,

検証:根津綾子
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

高市首相を応援したい人は比例の投票用紙に「高市早苗」? 比例代表は「政党名」のみ【#衆院選ファクトチェック】

高市首相を応援したい人は比例の投票用紙に「高市早苗」? 比例代表は「政党名」のみ【#衆院選ファクトチェック】

2026年2月8日投開票の衆議院選挙で、「(高市早苗首相を支持する人は)比例区は『自民党』ではなく『高市早苗』と書きましょう」という投稿が拡散しましたが、誤りです。衆議院選挙の比例区では、政党名でしか投票できません。個人名では無効になります。 検証対象 拡散した投稿 2月4日、「【注意‼️拡散希望】比例に「自民党」と書くと、高市さんではなく自民党の養分になってしまいます 高市さんだけに力を預けたい人は、濁さず「高市早苗」と書きましょう!」という投稿が拡散した。 検証する理由 2月5日現在、この投稿は200件ほどリポストされ、表示回数は16万回を超える。投稿について「ネタを通り越してる」「比例代表は党名じゃないと無効になるで」という指摘が多数付いている。 誤解して無効票になる危険性があるため、検証する。 検証過程 衆院選の比例代表の投票は「政党名」のみ 衆院選では小選挙区と比例代表の2つの区分で投票する。衆議院議員の定数は465人、そのうち小選挙区289人、比例176人を選出する(総務省.”衆議院議員総選挙とは”)。 全国289の選挙区ご

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
中道・鎌田さゆり氏が中指を立てる画像? AI生成による改変【♯衆院選ファクトチェック】

中道・鎌田さゆり氏が中指を立てる画像? AI生成による改変【♯衆院選ファクトチェック】

2026年2月8日投開票の衆院選で、宮城2区で中道改革連合から立候補している鎌田さゆり氏が中指を立てる画像が拡散しましたが、AIで改変されたものです。鎌田氏は、自身のXで加工される前の画像を公開しています。 検証対象 拡散した投稿 2月3日、「国会議員がこんなハンドサインしていいの⁉︎  立憲も中道も」という文言とともに中道の鎌田さゆり氏が中指を立てる画像が拡散した。 検証する理由 2月5日現在、この投稿は7700件以上リポストされ、表示回数は57万回を超える。投稿について「最悪なんだけど」「これは中道の方ですか?相当やばいですね…」というコメントの一方で「デマの流布は逆に訴訟されるリスク有るんで削除した方がいいよ」という指摘もある。 選挙の候補者に関わる画像で、影響が大きいために検証する。 検証過程 拡散画像に生成AIの形跡 拡散した画像の右下には、ひし形のようなマークがある。これはGoogleのAI「Gemini」で画像を生成した際に表示される透かしだ。 このマークが付いている場合には、Geminiで生成または改変した可能性が高い

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
片山さつき財務相が外国人生活保護を終了? 運用の適正化【♯衆院選ファクトチェック】

片山さつき財務相が外国人生活保護を終了? 運用の適正化【♯衆院選ファクトチェック】

片山さつき財務相が外国人の生活保護廃止を発表したかのような投稿が拡散しましたが、誤りです。政府は2026年1月23日の閣議で、外国人の生活保護について運用を適正化する方針を決めましたが、「外国人の生活保護終了」ではありません。 検証対象 拡散した言説 2026年1月29日、「超朗報が来ました」という文言付きの画像がXで拡散した。 検証する理由 2月5日現在、投稿は1万回以上リポストされ、表示は253万件を超える。 投稿には「デマです」「外国人生活保護が終了なんて話はない」などの指摘もあるが、「正直一番待ち望んでいた!」「国民健康保険も日本人限定でお願いします」など真に受けたコメントが多い。 選挙への影響もあるため、検証する。 検証過程 財務相定例会見の画像 拡散した画像は、背景などから、記者会見の様子を切り取ったものだと考えられる。 片山氏が財務相に就任した2025年10月21日以降の財務省定例会見をYouTubeで検索すると、2025年11月18日の会見が、背景・服装ともに拡散した画像と一致した(日テレNEWS"【ノーカット】片山財

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
各党党首の発言の真偽は 討論会をまとめて検証【#衆院選ファクトチェック】

各党党首の発言の真偽は 討論会をまとめて検証【#衆院選ファクトチェック】

2月8日投開票の衆院選に向けて開かれた様々な党首討論の発言をまとめてファクトチェック。「誤り」「不正確」などに該当し得る部分を一覧にしました。 質問が高市早苗首相に集中しがちなため、発言量は均等ではありません。その影響もあり、高市首相の発言へのチェックが主となりましたが、チェック回数の多さが、ただちに他の発言者より信頼性が低いことを示すわけではありません。 また、検証に時間がかかるため、すべての疑わしい発言をチェックできたわけではありません。 検証対象とした党首討論会 ニコニコ https://www.youtube.com/watch?v=VcF_yHv2BO4 フジテレビ 日曜報道 THE PRIME https://www.youtube.com/watch?v=ePy2ORVqYkw 日本記者クラブ https://www.youtube.com/watch?v=TvxDE_hZ8tw テレビ朝日 報道ステーション https://www.youtube.com/watch?

By 古田大輔(Daisuke Furuta)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は2月28日(土)午前10時~11時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0228.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的に

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)