「高市政権発足4ヶ月でレアアースが一気に採掘にたどり着いた」?十年以上前からのプロジェクト【ファクトチェック】

「高市政権発足4ヶ月でレアアースが一気に採掘にたどり着いた」?十年以上前からのプロジェクト【ファクトチェック】

経済安全保障で重要なレアアースの確保について「高市政権発足4ヶ月で一気に採掘までたどり着いた」という投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。レアアース採掘に向けた研究・開発は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環として、2014年度以降、進められてきました。

検証対象

拡散した言説

2026年2月4日、「高市政権発足4ヶ月で、それまで進んでいなかったレアアースが一気に採掘まで辿り着けた」という趣旨の投稿が拡散した。

検証する理由

2月9日現在、投稿は1.5万回以上リポストされ、表示は173万件を超える。

投稿には「今回のレアアース調査が実現できたのは内閣府主導で実施されたから」「岸田内閣時代(2022年)に水深2,470mで1日あたり約70トンまでいき今回はそれが水深6000mで1日あたり350トンまで成功したというだけの話」などの指摘もあるが、「高市早苗はわずかの期間で成し遂げた。行動力、実行力がハンパない!」「ホントこれ14年前に始めていたらと思うと悔しくてしかたない」などのコメントも多いため、検証する。

検証過程

レアアースとは

レアーアース(希土類)は、存在量が少ないなどの理由で希少とされる金属(レアメタル)の一部で、超伝導、強磁性、触媒、光学、蛍光など様々な特性をもつネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)など17の元素の総称。

電気自動車のモーターや風力発電機、スマートフォンなど幅広い用途で使われており、GX(グリーン・トランスフォーメーション)などの推進に欠かせない重要鉱物だ(以上、経済産業省”METI Journal レアアースってなに?”)。

日本は現在レアアースを輸入に依存している。埋蔵量、採掘生産、精錬で世界的に中国が圧倒的な存在となっており、日中関係の緊張が続く中で、安定供給が課題だ(財務省”戦略物資としての側面を得た 中国産レアアース”)。

南鳥島沖でのレアアース採掘とは

2月2日、内閣府と海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、小笠原諸島・南鳥島沖の水深約6000メートルの海底からレアアースを含むとされる泥の引き揚げに成功したと発表した(日経新聞”南鳥島沖レアアース泥、技術・採算性検証 内閣府が引き揚げ成功発表”2月2日、産経新聞”レアアース泥採取に成功した地球深部探査船「ちきゅう」 2015年の報道公開を振り返る”2月6日)。

拡散した投稿は「高市政権発足4ヶ月で一気に採掘まで辿り着けた」と述べている。しかし、南鳥島沖のレアアース採掘は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環として、長年にわたって進められてきた。

SIPとは、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が司令塔として、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーションを実現する国家プロジェクトだ(SIP”SIPとは”)。

SIPは第1~3期に分かれており、第1期は2014~2018年度、第2期は2018~2022年度、第3期は2023~2027年度と設定されている(内閣府”戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)概要”p3)。

現在は第3期で、「豊かな食が提供される持続可能なフードチェーンの構築」や「統合型ヘルスケアシステムの構築」など14の課題がある(内閣府”戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期(令和5年~)課題一覧”)。

南鳥島沖でのレアアース採掘は、このうち「海洋安全保障プラットフォームの構築」の一環として位置づけられている。内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局の資料には、次のような記載がある。

「産業に不可欠とされるレアアースの我が国における安定供給に貢献するため、最終年度までには、南鳥島海域でのレアアース泥の探査、採鉱、分級、分離・精製・製錬の実証試験を完了させることで、海洋環境と共存した新たなるレアアース・サプライチェーン構築へ向けた取り組みを加速する」(内閣府”戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)海洋安全保障プラットフォームの構築 社会実装に向けた戦略及び研究開発計画」p1-2)。

南鳥島での採鉱実証は上記の通り第3期からだが、そのために必要な研究開発は第1期から始まっていることも明記されている。

「SIP第1期海洋課題『次世代海洋資源調査技術』(以下、「SIP 第1期」という)においては、海洋鉱物資源としての海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、マンガンノジュール、レアアース泥を対象として研究開発をスタートし、3年目からは主たる研究開発対象を水深2,000m以浅の潜頭性海底熱水鉱床に絞り込み、研究開発を推進した」

「SIP第2期では、レアアースの賦存が確認されていた南鳥島海域のレアアース概略資源量評価に必要な調査を行うとともに、 SIP第1期で開発された要素技術を整理し、水深6,000mの深海からのレアアース泥の生産が可能なシステム開発及び設計の検討を進め、解泥・採泥・揚泥システムを構築し、解泥・採泥プラントや付帯機器、揚泥管3,000mを製作した」 (内閣府”戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)海洋安全保障プラットフォームの構築 社会実装に向けた戦略及び研究開発計画」p12)

つまり、南鳥島沖でのレアアース採掘に向けた取り組みは第1期から進められてきたため、「高市政権発足4ヶ月で、それまで進んでいなかったレアアースが一気に採掘まで辿り着けた」は実態と異なる。

レアアース採掘の本格化はまだ見通せず

レアアースについては、衆院選中に高市早苗首相が街頭演説で採掘成功に言及し、「日本は、これから今の世代も次の世代もレアアースには困らない」と発言した。

これに対して、朝日新聞がファクトチェックをしている。現状では採集が技術的に可能かを確認できたにとどまり、今後は採掘量や採算性、精錬技術や汚染対策なども課題となり、「『困らない』と言うには根拠が薄い」として、ミスリードと判定している(朝日新聞”高市首相「日本はこれからレアアースに困らない」→「ミスリード」”)。

判定

「高市政権発足4ヶ月で、それまで進んでいなかったレアアースが一気に採掘までたどり着いた」という趣旨の投稿が拡散した。レアアース採掘に向けた研究・開発は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環として、2014年度以降進められてきた。よって、ミスリードで不正確と判定する。

出典・参考

経済産業省.”METI Journal レアアースってなに?”.https://journal.meti.go.jp/keizaiword/43583/,(閲覧日2026年2月9日).

財務省.”戦略物資としての側面を得た 中国産レアアース”.https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/2025010/202510g.pdf,(閲覧日2026年2月9日).

日経新聞.”南鳥島沖レアアース泥、技術・採算性検証 内閣府が引き揚げ成功発表”.2月2日、https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG226XD0S6A120C2000000/,(閲覧日2026年2月9日).

産経新聞.”レアアース泥採取に成功した地球深部探査船「ちきゅう」 2015年の報道公開を振り返る”.2月6日.https://www.sankei.com/article/20260206-WMJVGHEGTFKNBL6C27DRL3H3TM/,(閲覧日2026年2月9日).

SIP.”SIPとは”.https://www.sip.go.jp/sip/,(閲覧日2026年2月9日).

内閣府.”戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)概要”p3.https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sipgaiyou.pdf,(閲覧日2026年2月9日).

内閣府.”戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期(令和5年~)課題一覧”.https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sip3rd_list.html,(閲覧日2026年2月9日).

内閣府.”戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)海洋安全保障プラットフォームの構築 社会実装に向けた戦略及び研究開発計画.https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sip_3/keikaku/05_kaiyo.pdf,(閲覧日2026年2月9日).

朝日新聞.”高市首相「日本はこれからレアアースに困らない」→「ミスリード」”.https://www.asahi.com/articles/ASV2542SBV25UTFL013M.html,(閲覧日2026年2月9日).

検証:根津綾子
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

衆院選で頼るべき情報は/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

衆院選で頼るべき情報は/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

衆院選の投開票日です。昨夜、高市早苗首相の最終演説を二子玉川公園で聞いてきました。会場は大混雑。制服姿の高校生もおり、男女問わず幅広い世代の人気を集めていました。 会場が広く、マイクの音が聞き取りにくい場所もありました。写真だけ撮って帰る人達もおり、「政策を聞きに来た」というよりも「高市さんを見に来た」という雰囲気の人たちもいました。 「雰囲気」の強さは、YouTube動画の視聴データにあらわれています。選挙ドットコムの協力で、衆院選に関するYouTube動画の視聴データを調べたところ、その多くはショート動画で、政策を論じるというより、政党や候補者を情緒的に褒めるまたは貶すだけの内容でした。 自民党にポジティブなYouTube動画が激増 高市人気に引っ張られ、ショート動画で政策よりも印象勝負【#衆院選ファクトチェック 解説】政治や選挙に関する情報をYouTubeやTikTokで得る人が増え、生成AIによるディープフェイクなど、動画での偽・誤情報が増えています。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、「どういう動画がどれだけ見られているか」について、選挙・政治の情報サ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
誤情報対策はファクトチェックだけじゃない 信頼性の高い役立つサイト集【#衆院選ファクトチェック 解説】

誤情報対策はファクトチェックだけじゃない 信頼性の高い役立つサイト集【#衆院選ファクトチェック 解説】

偽・誤情報対策は、ファクトチェックに限りません。重要なのは、正確で信頼性の高い情報に基づいて判断することです。2026年衆院選の投開票日が2月8日に迫る中、誰に投票するかを決めるために役立つ、信頼性の高い情報を提供しているサイトを紹介します。 日本最大の選挙・政治の情報サイト 日本最大の選挙・政治の情報サイトとして知られる選挙ドットコムには、日本のあらゆる選挙や政治家の情報がまとまっています。 第51回衆議院議員総選挙の特集ページでは、郵便番号を入力するだけで自分の選挙区の候補者のプロフィールや活動記録、動画や政策アンケートの回答などをまとめて確認できます。 選挙ドットコム”第51回衆議院議員総選挙” https://shugiin.go2senkyo.com/51 ノーカット演説動画と文字起こし NHKのウェブサイトでは各党党首の公示日の演説動画をノーカットで掲載し、全文でも見ることが出来ます(NHK"【演説全文・全編動画】衆議院選挙公示 党首らの訴えは?")。 各党首の演説で多く使われた言葉も分析しており、各党が何に力を入れて訴えているのかが、視覚的にわか

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
日本がパキスタン人受け入れを5万人に拡大? そのような方針はない【#衆院選ファクトチェック】

日本がパキスタン人受け入れを5万人に拡大? そのような方針はない【#衆院選ファクトチェック】

日本がパキスタン人の受け入れ人数を2.5万人から5万人に拡大するという投稿が拡散しましたが、不正確です。2026年2月6日現在、パキスタン人の受け入れを拡大するという政府からの発信も報道もありません。インドから高度人材や介護人材を受け入れる計画と混同している可能性があります。 検証対象 拡散した言説 2026年1月28日、「こんなの、日本終わるぞ」「日本国内のパキスタン人→2.5万人 政府→今後『5万人』へ拡大方針」などという投稿がXで拡散した。 検証する理由 2月6日現在、投稿は6500回以上リポストされ、表示は23万件を超える。投稿には「移民政策反対」「公園で子供遊ばせられないじゃん」など、真に受けた反応が多い。 外国人の受け入れは衆院選の論点の一つとなっている。選挙への影響も考えられることから、検証する。 検証過程 パキスタンは世界テロ指数2位 拡散した投稿の前半部分にある「世界テロ指数2位」を調べてみた。 オーストラリアの経済平和研究所(Institute for Economics and Peace: IEP)が発表し、日本

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
外国人は社会保障にただ乗り? 国保負担の比率は給付を上回る【#衆院選ファクトチェック】

外国人は社会保障にただ乗り? 国保負担の比率は給付を上回る【#衆院選ファクトチェック】

外国人が国民健康保険や生活保護などの社会保障にただ乗りしている、という言説が多数拡散していますが、不正確です。厚生労働省によると、国保に加入する外国人は2023年度で97万人で全体の4%ですが、総医療費に占める割合は1.39%。支給よりも負担の比率が大きくなっています。日本人よりも未納率が高い問題はありますが、よく話題になる生活保護も外国人世帯はごく一部です。 検証対象 拡散した投稿 「許せないのは、日本にたかりにきた外国人にタダ乗りされること」「生活保護・国民健康保険等は外国人に適応…自国民が困窮しているのに外国人に対し厚遇」といった、日本人が負担している社会保障制度を外国人に適応させてタダ乗り状態になっている、と指摘する言説がXなどに多く投稿されている(例1、例2)。 2026年1月26日には日本保守党・法律顧問の北村晴男参院議員が「日本の社会保障制度も守れないですよ。タダ乗りめちゃくちゃですから」と発言する動画もXに投稿され、1100件以上リポストされている。 検証する理由 投稿について「社会保障は、高市総理が言うようには使われていません」「

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は2月28日(土)午前10時~11時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0228.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的に

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)