岩手・大船渡の山火事は兵器によるもの? 災害時の陰謀論に注意【ファクトチェック】(追記と修正あり)

岩手・大船渡の山火事は兵器によるもの? 災害時の陰謀論に注意【ファクトチェック】(追記と修正あり)

岩手県大船渡市の山火事をめぐって「兵器によって起こされた」「スマートシティ化のために狙ってやっている」などの主張が拡散していますが、誤りです。アメリカの火災でも同様の情報がありました。災害時にはこうした陰謀論が拡散します。

検証対象

2025年2月27日頃から、岩手県大船渡市の大規模な山林火災をめぐって「火災は兵器によって引き起こされた」「DEW(指向性兵器)で焼き払っている」「大船渡市のスマートシティ化のために土地を確保して住民を追い払うことを狙って起こされた」などの主張が複数拡散している(例1例2例3)。

中には44万を超える閲覧と1700のリポストを獲得しているものもあり、「狙い済まして町を潰すってときに今後もこういうことが起きますね」「不自然な火事が多すぎる」「やはり立候補地でしたか」など投稿内容を真に受けるコメントが多くついている。

これらの情報に関しては、NHKが「根拠のない情報」「偽情報」などと注意喚起する記事を出している

検証過程

岩手・大船渡の山火事

2月26日頃、岩手県の大船渡市で山火事が発生した。3月3日の朝までに焼失面積が2100ヘクタールに上ると見られ、27日には一人が遺体で発見された。多数の建物にも被害が及んでいる(消防庁「岩手県大船渡市の林野火災による被害第11報」)。

スマートシティ化のために焼き払う?

主張にある「大船渡市のスマートシティ化」とは、国が地方創生のために推進する「デジタル田園都市国家構想」に沿った大船渡市の施策のことだ。

2011年の東日本大震災で大きな被害を受けた大船渡市が、人口減少・流出を抑え、暮らしを便利にし、仕事を生み出すためにデジタルを活用しようという施策で、2024年2月に計画を公表している。

拡散した投稿には、大船渡市がスマートシティ候補地だからと主張するものが複数あるが、火事との関連を示す根拠はない。

陰謀論、海外の火災でも拡散

2023年8月のハワイ・マウイ島、2025年1月のロサンゼルスの火災の時にもスマートシティ化で土地を確保するために火災が起こされたという主張が拡散。検証記事も出た(CBS)。「兵器によって火災が引き起こされた」という情報も、空からレーザーが地上に照射される映像と共に拡散した。(BBC)。

日本ファクトチェックセンター(JFC)も、マウイ島の火災の際に拡散した情報を検証している。

マウイ島火災発生の直前にレーザー光線?【ファクトチェック】
「マウイ島火災発生の直前にレーザーのような光線がハワイのマウイ島を襲った」という言説がTwitterやFacebookなどで拡散しましたが、誤りです。添付された写真は2018年にSpaceXがロケットを発射した際の写真です。 検証対象 「マウイ島火災発生の直前にレーザーのような光線がハワイのマウイ島を襲った」という言説が拡散した(例1、2)。このツイートは34万5600回表示され、リツイート565件、いいね1570件を獲得している。 リプライ欄には「遠隔操作無人機からの高出力レーザービーム照射じゃなかったっけ?」などの声の一方で、疑義を呈するツイートも多くある。 添付されている写真について、米ファクトチェック団体「PolitiFact」やAFP(記事1、2)が「2018年のSpaceXのロケット打ち上げ時の写真である」と伝えている。 検証過程 このツイートに添付されている写真は、2018年にSpaceXが投稿したロケット発射時の写真(2枚目)と一致する。 PolitiFactは山火事の原因をレーザー光線とする別の画像についても検証し、「誤り」と判定

火災の原因や時期は

林野庁のページ「山火事予防!!」によると、山火事の7割が、1月から5月にかけて発生。山林に落ち葉が積もり、風が強い、乾燥状態などの自然条件が重なることで起きやすくなる。また、山火事の原因は「たき火」が最も多いという。

今回の大船渡市の火災原因は2月28日現在、判明していない。警察の情報として「作業小屋から火が出て燃え広がったと見られる」という報道もある(NHK)。

判定

岩手県大船渡市の山火事をめぐって「兵器によって起こされた」「自然災害ではなく、スマートシティ化のために狙ってやっている」などの主張が拡散したが、誤り。国内外の災害で拡散する陰謀論だ。

あとがき

今回の山火事に限らず、地震など大規模災害のたびに兵器によって人工的に起こされたとする陰謀論がたびたび拡散します。災害の続く現地では、不安を抱えながら避難生活を送る方々が大勢います。また、被災地以外でも災害の様子を見て恐怖を感じる人もいます。拡散する陰謀論は、恐怖や不安の感情をさらに強めることになります。

JFCでは、災害時の偽情報の類型について解説する記事を配信しています。参考にしてください。

災害時に広がる偽情報5つの類型 地震や津波に関するデマはどう拡散するのか
地震や津波、洪水など大きな災害が発生すると、偽情報や根拠のない情報が拡散します。事実と異なる投稿や不確かな救助要請は、本当に助けを必要としている人たちへの支援を遅らせたり、妨げたりする恐れがあります。拡散しがちな偽情報・誤情報のパターンを知って、支援を妨げないようにしましょう。 災害時の偽情報の5類型 実際と異なる被害投稿 災害時に最も多く見られるのが、偽の被害報告だ。2024年1月1日の能登半島地震では、2011年の東日本大震災の津波の映像を使って、まるで能登半島地震の被害のように投稿する事例が相次いだ(例1、例2、例3、例4、例5 、例6)。 例2と例3を投稿した2つのアカウントは添付動画は異なるが、投稿文言は同じで「津波到達になった瞬間NHKのアナウンサーがすごい怒鳴ってる!危機感の伝わってくるアナウンスなので北陸新潟能登半島の方逃げてください」と書かれている。投稿内容をコピーしたと見られる。 例5の投稿は「石川県能登に大津波警報逃げろ」という文言に「#東日本大震災」というハッシュタグもついている。映像は東日本大震災のものだと示唆しているように読

検証:宮本聖二
編集:古田大輔

追記と修正

火災の被害について3月1日現在1400haとしていましたが、記事中にリンクした消防庁の資料は2月28日のものでした。そこで、3月3日の消防庁発表資料(第11報)に差し替えて、記事中の被害を2100haと修正しました。なお、拡散した投稿例ですが、「例3」は大船渡の火災を特定したものではなかったので、スマートシティ化に関連付けて「作為的に火をつけ、住民を追い出し、土地強奪を企んでる可能性が高い」という別人の投稿に差し替えました。(2025年3月3日追記と修正)


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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