温暖化や水害はメガソーラーのせい? 「誤り」や「根拠不明」、さらなる調査が必要な例も

記録的な猛暑が続く2025年夏、SNSでは「異常な温暖化の原因はメガソーラー」「熊本の水害はメガソーラーによる人災では!?」など、温暖化や水害の原因をメガソーラーだと批判する投稿が多数拡散しています。地球温暖化対策のはずのメガソーラーがなぜ、批判の対象となっているのか。本当に災害の原因になっているのか、解説します。
そもそもメガソーラーとはなにか
私たちの暮らしを支える電気には、いろいろなつくり方があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
火力発電は、燃料さえあれば天候などに左右されずに安定供給ができ、発電所の建設コストが安いというメリットがあります。一方で、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を排出し、燃料を輸入に頼っているため、国際情勢や価格の影響が大きいというデメリットがあります。
風力発電は、CO2を排出せず、燃料が不要で夜間も発電できるというメリットがあります。一方で風力によって発電量が不安定になり、騒音問題などもあり設置場所に制約があります。
水力発電も、CO2を排出しません。国内に豊富な水資源があり、燃料を輸入する必要もありません。一方で、大規模ダムなどの建設には莫大な費用と時間が必要で、生態系へも影響があります。
原子力発電は、わずかな燃料で大量の発電が可能でCO2を排出せず、天候に左右されずに24時間稼働できるため、電力の安定供給が可能です。一方で、事故が発生すればその範囲と影響は深刻です。放射性廃棄物の最終処分の方法にも課題があり、建設費も廃炉費も高額です。
太陽光発電は、CO2を排出せず、小規模な家庭用から大規模な発電所まで幅広く設置可能です。一方で天候や時間帯によって発電量が大きく変動し、大規模な発電には広大な敷地が必要となります。
「メガソーラー」は、大規模な太陽光発電施設のことで、出力1,000kW以上を指しています(環境省”平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書”)。
メガソーラーで地球温暖化が進む?
メガソーラーが地球温暖化の原因だと批判する投稿は多数拡散しています(例1、2)。
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、2025年8月に太陽光発電と地球温暖化の関係について、気候変動を専門とする江守正多東京大学未来ビジョン研究センター教授に取材しました(JFC”太陽光発電で地球温暖化が進む? 大きな抑止効果【ファクトチェック】”)。
江守氏は、次のように温暖化への影響を否定しました。
「太陽光パネルの設置により、地表面の熱の反射率が下がったり、植物の蒸散作用が失われたりすると、局所的に気温が上昇する可能性はあります。しかし、その影響は施設の近くに限られる。地球全体の温暖化とは全く別物です」
拡散した言説の中には、太陽光パネルの製造や設置がCO2の排出を招くという批判があります。江守氏は、この点については以下のように指摘しました。
「森林を伐採して太陽光パネルを設置すれば、たしかにその分、CO2排出量は増える。しかし、太陽光発電施設がなかったら使っていたであろう火力発電の稼働によって生じるCO2の排出量と比較すべきです」
製品の材料の調達から廃棄されるまでの全段階で排出されるCO2の総量である「ライフサイクルCO2」を比べると、太陽光発電は、石炭や石油による火力発電と比べて10分の1以下です(電力中央研究所”日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価”)。
熊本の水害はメガソーラーのせい?
8月には、住宅被害が7500棟を超えた熊本の水害と絡めて、「水害はメガソーラーによる人災」という投稿も多数拡散しました(例3,4,5)。
熊本県によると、県内には110の太陽光発電施設があり、被害が出た玉名市、熊本市、天草市にも設置されています(熊本県”熊本県内の「再生可能エネルギー発電事業に関する三者協定」締結状況一覧(令和5年9月30日時点)”)。
しかし、熊本県エネルギー政策課はJFCの取材に対し、以下のように今回の水害の原因がメガソーラーであるという説を否定しました。
「今回の水害は、長崎県の海上から熊本県を含めた九州北部に広範囲に線状降水帯が発生し、記録的大雨が降ったことによるものです。実際、メガソーラー施設のない市町村でも被害が発生していることを踏まえても、水害とメガソーラーに因果関係があるとは考えておりません」
専門家「洪水流出量の増加に影響した可能性 否定できない」
JFCは、河川工学が専門の島谷幸宏熊本県立大学特別教授にも取材しました。
島谷氏は「現場を見ていないため詳細は分からない」と前置きしたうえで、「メガソーラーが今回の洪水流出量の増加に影響を与えた可能性は否定できない」と話しました。
島谷氏によれば、一般的にメガソーラー施設は森林の保水機能を失わせるため、調整池を設けて流出を抑えます。ただし、調整池は想定した降雨量で設計しており、想定を超える降雨量の場合、不十分だといいます。
さらに「2019年に国は調整池の設置基準を厳格化しており、それ以前の調整池は、近年の豪雨に対応できていない可能性がある」とも指摘しました。
「メガソーラーが今回の水害の原因である」という指摘は、現状では根拠不明です。しかし、大規模な発電施設の設置が環境に影響し、水害を生む可能性も否定できないため、詳細の把握にはさらなる調査が必要とされます。
メガソーラーへの批判と対応
総務省は2024年3月、太陽光発電設備等の導入についての調査結果をまとめました。基礎調査に回答した自治体のうち約4割でなんらかの問題があり、その一部で、泥水・土砂などの流出、雑草の繁茂、騒音等が発生していたといいます(総務省”太陽光発電設備等の導入に関する調査<結果に基づく勧告>”)。
2025年9月には、北海道・釧路湿原の周辺で工事が進んでいたメガソーラーについて、知事の許可を得ないままに開発されていたとして北海道が事業者に中止を勧告しました(NHK”釧路湿原の“メガソーラー”事業者に工事中止を勧告 北海道”)。
大規模な自然破壊に繋がるという批判がソーシャルメディアを中心に拡大する中での行政の対応でした。
江守氏は、太陽光発電への批判が広がる現象について、次のように指摘しました。
「石炭火力発電では、たとえばインドネシアなどの採掘地で露天掘りによる深刻な環境破壊が進んでいる可能性があるが、私たちの目の届かない遠い場所で起きているため、気づきづらい。一方、太陽光パネルは私たちの生活圏の近くに設置されることが多く、景観や環境への影響が可視化されやすい。このため反対の声が上がりやすいが、本来は遠くの環境破壊も意識すべきだ」
メガソーラーへの批判に関しては、JFCが確認しているだけでも、自然破壊への懸念を訴える声もあれば、再生エネルギーに対する政治的な反発の声もあります。
「メガソーラーが地球温暖化を進めている」という説は科学的に明らかに誤っているとしても、「環境に悪影響がある可能性がある」という指摘に対しては、より慎重に事実を確認する必要があります。
出典・参考
環境省.”平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書” .
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h26/html/hj14040133.html, (閲覧日2025年9月7日).
JFC.”太陽光発電で地球温暖化が進む? 大きな抑止効果【ファクトチェック】" .
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/environment/false-solar-power-accelerates-global-warming/ (閲覧日2025年9月7日).
電力中央研究所.”日本における発電技術のライフサイクルCO2排出量総合評価” .
https://criepi.denken.or.jp/hokokusho/pb/reportDlConf?reportNoUkCode=Y06&tenpuTypeCode=10&seqNo=3 , (閲覧日2025年9月7日).
熊本県.”熊本県内の「再生可能エネルギー発電事業に関する三者協定」締結状況一覧(令和5年9月30日時点)” .
https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/233558.pdf (閲覧日2025年9月7日).
総務省.”太陽光発電設備等の導入に関する調査<結果に基づく勧告>” .https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/hyouka_240326000172382.html#kekkahoukoku, (閲覧日2025年9月7日).
NHK.”釧路湿原の“メガソーラー”事業者に工事中止を勧告 北海道” .
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250902/k10014910371000.html, (閲覧日2025年9月7日).
編集:藤森かもめ、古田大輔
※サムネイルのメガソーラーの画像は生成AIによるものです。
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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