小池百合子都知事が都議会で自身に批判的な議員を退席させた?【ファクトチェック】

小池百合子都知事が都議会で自身に批判的な議員を退席させた?【ファクトチェック】

小池百合子都知事が都議会で自身に批判的な発言をした議員を退席させたという言説が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。小池都知事に批判的な発言をした都議が委員会で退席を命じられたことは事実ですが、発言の取消しを求める動議について、当事者は議事に参加できないという条例にそった対応です。

検証対象

小池都知事が自身を批判した都議を退席させたという言説が動画とともに拡散している。

2024年6月11日に拡散したX(旧Twitter)上の投稿には動画とともに「小池百合子って都議会でこんなんなんや」「独裁者に刃向かえば退席させられるねんよ」などといったコメントもついていた。

2024年6月20日現在、このポストは1.2万件以上リポストされ、表示回数は65万件を超える。また、TikTokではこの動画が複数のバージョンで拡散している。

検証過程

拡散した動画は57秒に編集されている

添付された動画は57秒間。まず、「3月13日都議会予算特別委員会」の様子として、関口健太郎都議(立憲民主党)が以下のように発言する様子が映っている。

「知事の答弁拒否率は76%」「耳障りの悪いことを言う議員の質問は排除するのか」「知事答えましょうよ」

それに対して、小池都知事が苦笑するような表情をし、「また答弁拒否だよ」という音声がかぶさる。場面が変わって都職員らしき女性が「適切に答弁しており、指摘には当たりません」と答える。

その後、「3月26日の予算特別委員会」というテロップが入り、紺色のネクタイの男性が「関口健太郎都議の不穏当な発言の取消しを求める動議が提出された」と発言し、「都民ファースト議員」という字幕と共に眼鏡の男性が「不穏当発言として断じて容認できません」と主張する。

ここで、紺色のネクタイの男性が「関口議員が除席(※テロップのママ)することに賛成の方はご起立願います」と言い、多数の議員が起立。「表現の自由、言論の自由の侵害じゃないか!」と声を上げる関口都議に紺色のネクタイの男性が退席を命じている。

動画は、関口都議が「不穏当な発言」を理由に退席させられたかのような印象を与える。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、都議会の会議録録画映像などを確認した。

(肩書は、すべて当時)

2024年3月13日の予算特別委員会の議論は

都議会の会議録によると、関口都議は、2024年2月に開かれた都議会の代表質問・一般質問で計28人が小池都知事に136問の質問をし、知事自ら答えたのは80問で56問は「答弁拒否」をしたと説明。「答弁拒否率41%どうお考えですか」と質問している。

関口都議はさらに「質問した28人のうち21人は知事の答弁率100%」と前置きした上で、「(その他の)7人の議員が知事へ質問したのは74問。このうち知事が答弁したのはたった18問」「知事の答弁拒否率76%」と追及。「知事に耳触りの悪いことをいう議員の質問は排除するのか」と重ねて質問した。

これらの質問に対し、都の政策企画局長は「二元代表制の下、議会においてはこれまでも、ご質問の趣旨に応じて執行機関側として適切に答弁しており、ご指摘には当たらないと思っております。地方自治法の逐条解説によりますと、議会の審議に必要な説明について職員等へ委任することは、執行機関側の任意であるとされております」などと答弁している。

この流れは、検証対象の動画にある通りだ。

3月26日の予算特別委員会での議論は

2024年6月19日現在、都議会は3月26日予算特別委の会議録・速記録を公開していないが、収録した映像は公開している。JFCはその録画映像を確認した。

1時間33分のうち、8分48秒ごろに内山真吾委員長が関口都議に関して「不穏当な発言の取消しを求める動議が文書をもって提出されました」と発言し、「関口健太郎委員の除斥について採決を行います」と採決している。

起立多数と認めた内山委員長は「関口委員は除斥することに決定いたしました」と発言し、関口都議が「何が不穏当だよ、表現の自由、言論の自由の侵害じゃないか」と声を上げ、野次が飛び交うなか内山委員長が退席を求める様子が映っている。

関口都議の退席後、映像の10分ごろから菅原直志副委員長が動議の趣旨説明をしている。

趣旨説明では、政策企画局長の答弁した地方自治法の解釈を肯定した上で「関口健太郎委員の『答弁拒否』『答弁差別』『質疑の排除』なる発言は、東京都議会議長の議事整理権に基づく発言を許可する権限を否定するものであり、議会の品位を著しく損なう言動であり、不穏当発言として断じて容認できません」などと主張している。

つまり、拡散した動画は、採決と動議の趣旨説明の順番を逆に編集している。

関口議員の退席の理由は

検証対象の動画には「百合子の独裁政治」という文言が赤で大きく強調され、小池都知事に対して批判的な発言をしたことが都議の退席の理由であるかのような編集となっている。

しかし、予算特別委の録画映像によると関口都議が退席を命じられたのは「関口健太郎委員の不穏当な発言の取消しを求める動議」の採決の前だ。

JFCは東京都に関口議員の退席の理由について確認した。

都議会議会局議事部議事課は「『関口健太郎委員の不穏当な発言の取消しを求める動議』の採決の前段として、都議会委員会条例18条に則り、本人に採決時席を外すべきか否かを諮って決した」と回答した。

東京都議会委員会条例18条では「委員は、自己若しくは父母、祖父母、配偶者、子、孫若しくは兄弟姉妹の一身上に関する事件又は自己若しくはこれらの者の従事する業務に直接の利害関係のある事件については、その議事に参与することができない」などと規定している。

関口都議以外に退席を求められた事例があるかどうかを確認したところ、議事課は「東京都議会委員会条例18条に該当する事件の際、議員の間で合意が取れていれば自然発生的に除斥になることもある。今回は除斥するべき・するべきではないという意見が双方あったため採決という形に至ったが、他の議員に対しても同様の除斥が行われることがある」と答えた。

「除斥」とは、ある事案やその当事者に関係する人をその事案に関する議事などから取り除くことなどを言う。動画のテロップは「除席」となっていたが、意味が異なる。

実際に、3月26日予算特別委では福手裕子都議(日本共産党)に対して「福手ゆう子委員の虚偽の発言の取消しを求める動議」が提出され、採決に先立って福手都議も除斥されている。

議事課によると、除斥された関口都議は、自身に関する動議の採決後、次の議事から自席に戻っている。

判定

関口健太郎都議が予算特別委員会で除斥され、退席したのは事実だが、自身が関係する議事に加われないという都議会の条例に基づく手続きで、議事後は席に戻った。拡散した動画は議事進行の順番を変えて編集されており、「小池都知事が自身に批判的な議員を退席させた」はミスリードで不正確と判定する。

あとがき

2024年6月20日から都知事選挙が始まりました。候補者に関係する偽・誤情報が拡散しやすい状況になっています。画像の改変やミスリーディングな動画の編集などは、よくある手法です。発信元が不確かな情報については、関連情報や元資料の確認をせずに信じたり、拡散したりしないようにしましょう。

検証:木山竣策、リサーチチーム
編集:古田大輔、宮本聖二、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

「フランス入国の際の優先レーンから日本が外されたようだ」という情報が拡散しましたが、誤りです。2025年4月30日現在、日本は優先レーンの対象国です。 検証対象 2025年4月19日、埼玉県戸田市議・河合ゆうすけ氏が「フランスに入国する際、イミグレーションの優先レーンから日本が外されたようだ。日本のパスポートを持った中国人(帰化した人)が増えたからではないかと言われている」などと主張する投稿がXで拡散した。投稿には、フランス・パリの空港と思われる画像が添付されている。 投稿は4月30日現在、3700回以上リポストされ、表示回数は112万を超える。投稿には「治安だけは良かったのにその治安もパァ」「自公政権のお陰ですね」などのコメントのほか、「根拠がない」というコミュニティーノートの指摘もある。 検証対象の投稿が拡散するひと月ほど前にも、同様の投稿があった(2025年3月19日)。「フランスに入国しようとしたら優先自動ゲートが開かず、担当者に文句を言ったら『日本だけ撤廃した。向こうの中国人の列に並んで』と言われた」などという内容で「虚偽のポストの疑い」というコ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

「トランプ政権が社会福祉コストを精査したら、記録上で200歳以上が数万人もいた。戸籍制度が完備してる日本ではあり得ない」などという言説がXで拡散しましたが、不正確です。トランプ氏が演説でふれた200超歳の高齢者の記録は1041人分。また、亡くなった人が戸籍上生存したままになっている「高齢者所在不明問題」は日本でも起きています。 検証対象 2025年4月24日、「トランプ政権でDOGEが社会福祉コストの精査を行ったら、記録上で200歳以上が数万人もいたという話は、戸籍制度が完備してる日本ではあり得ないこと」という投稿がXで拡散した。 投稿は2025年4月28日現在、1万回以上リポストされ、表示は308万件を超える。投稿には「母が亡くなった時戸籍を取り寄せたら、江戸時代末期まで遡った記録が送られてきて驚いた」「ほんと、そう。無くすべきではない」などのコメントのほか、「日本でも何年か前にそういう事ありましたよ」という指摘もある。 検証過程 トランプ氏「220~229歳が1039人」 第2次トランプ政権は、財政赤字の削減を目指し、社会保障費の削減に取り組ん

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
文京区の中学校はクラスの半分が中国人? 外国籍の生徒割合は約4%【ファクトチェック】

文京区の中学校はクラスの半分が中国人? 外国籍の生徒割合は約4%【ファクトチェック】

東京都文京区では中学校のクラスの半分が中国人だという情報が拡散していますが、誤りです。文京区教育委員会によると、文京区立中学校の外国籍生徒の割合は約4%です。 検証対象 2025年4月19日、「文京区では中学校のクラスの半分が中国人」という投稿が拡散した。 この投稿は1万件以上リポストされ、表示回数は124万回を超える。投稿について「都内は恐ろしい状況なんだ」「マジでやばいでしょ」というコメントの一方で「どこの中学校の話をされてるんですか?」という指摘もある。 検証過程 東京都文京区の人口は2025年4月1日現在、23万5380人(前月比298人増)。そのうち中国人を含む外国人全体の人口は1万5821人(前月比17人減)で6.7%だ(文京区「人口統計資料」)。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、文京区教育委員会学務課に取材した。 文京区内に10ある区立中学校の外国籍の生徒について、学務課学事係は「国別の人数は把握しておりません。外国籍生徒の総数は104人で、これは全生徒2,341人の約4%です(令和6年5月1日現在)。そのため、特定の国籍の

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
維新の会が大阪万博跡地の使用権を中国に売った? 跡地の開発事業者は未定【ファクトチェック】

維新の会が大阪万博跡地の使用権を中国に売った? 跡地の開発事業者は未定【ファクトチェック】

元プロレスラーの前田日明氏が「維新の会が大阪万博の跡地の使用権を中国に売った」と話す動画が拡散しましたが、誤りです。万博終了後の跡地利用の開発事業者はまだ決まっておらず、現在提案のある企業は「中国ではない」と吉村洋文大阪府知事が否定しています。前田氏のチャンネルの動画は削除されましたが、切り出し動画の拡散が続いています。 検証対象 2025年3月、元プロレスラーの前田日明氏が「維新の会が大阪万博の跡地の使用権を中国に売った」と語る動画が拡散した(例1、例2、例3)。 これらの動画は、前田氏が自身のYouTubeチャンネルで公開した動画から切り出したものだ。元動画は2025年4月24日現在、削除されている。 前田氏が「大阪の維新の党が中国に万博の跡地の使用権を今後60年間売ってお金にした」などと語る部分が切り出されたショート動画は、YouTubeだけでなくTikTokやXなどで拡散を続けている。 検証過程 現在は削除されている前田氏の元動画は3月23日に投稿され、タイトルは「万博の跡地は中国のものになる」だった。以下のように語っていた。 「ある仕事で

By 宮本聖二

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)