「期日前投票は不正し放題」「鉛筆だと書き換えられる」? 選挙のたびに拡散【#参院選ファクトチェック】

「期日前投票は不正し放題」「鉛筆だと書き換えられる」? 選挙のたびに拡散【#参院選ファクトチェック】

参院選の開始とともに、投票のなりすましや書き換えなどの選挙不正を疑う投稿が拡散しています。これらは選挙のたびに広がる偽・誤情報で、根拠がないか誤った根拠に基づいています。

検証対象

選挙に不正があるという投稿は今回の参院選でも多数広がっている(例1,2)。

「期日前投票は不正し放題」「票を数える機械にからくりがある」「鉛筆で書かせるのは書き換えるため」など、不正の根拠とされる情報は様々だが、その多くはこれまでに何度も投稿されているものだ。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)ではこれまでにも選挙不正に関するファクトチェックを実施している。以下、それらを引用しつつ検証する。

開票システム「ムサシ」による不正?

「開票システム『ムサシ』が自民党と繋がっていて、票を数える際に操作している」というような情報は今回も拡散している。以前は「筆頭株主は安倍晋三元首相」という形で広がっていた。

株式会社ムサシの有価証券報告書を確認すると、筆頭株主は上毛実業株式会社。投票用紙の読取分類機、計数機、交付機、投票箱の中で自然に開くオリジナル投票用紙、投開票業務管理ソフト、投票箱や投票記載台などを取り扱っている(株式会社ムサシ”有価証券報告書2025年3月期”)。

選挙の開票所では、これらの機械だけではなく、選挙管理委員会の担当者や委員会によって選ばれた「開票管理者」、各陣営からの立ち会い、記者や開票作業の見学を希望する人の目もあり、不正を防止している。

詳細はJFCの以前の記事でも紹介した。

JFC“開票機器大手「ムサシ」の筆頭株主は安倍晋三氏で票を操作? 選挙のたびに拡散する誤情報【ファクトチェック】

期日前投票は不正し放題?

投票日よりも前に投票すると、票がすり替えられたり、書き換えられたりするという投稿も、選挙のたびに拡散する。

投票所は市区町村の選挙管理委員会が設置する。期日前投票の箱には鍵がかけられており、厳重に封印される。開封されるのは開票されるときだけだ。日本テレビが投票箱に密着した映像などで、封印の様子を確認できる(日テレ”【それって本当?】“期日前投票は書き換えられる”SNS投稿相次ぐ 「投票箱」に密着、わかったことは…”)

開票は前述の通り、衆人環視のもとで実施されるのでその場での不正も困難だ。

JFC“期日前投票はブラックボックスで不正し放題? 各選管で厳重な対策【ファクトチェック】

「投票を書き換えるために鉛筆を使わせる」?

今回の参院選で拡散が目立つのが「投票所で鉛筆を使わせるのは誰に入れたかを書き換えるため。ボールペンを持っていこう」という呼びかけだ。

これも、実際に票を書き換えるのは困難だ。開票箱は開票日まで鍵をかけて封印されており、開票所では多数の監視の目がある。気付かれないように消しゴムで消して書き直すのは不可能に近いし、大量に書き直した跡が見つかれば、誰かが気づくはずだ。

鉛筆が用いられるのは、投票用紙が特殊な用紙でできているためだ。折りたたまれても開きやすく、開票時に1枚ずつ手作業で開く手間を省ける。ボールペンを持っていくことは可能だが、滑って書きにくい恐れがある(大阪市”投票Q1-8”)

選挙で拡散しやすい偽・誤情報

注目を集めたり、対立構造になったりしやすい事象では、偽・誤情報が拡散しやすくなる。災害や選挙はその最たるものだ。JFCでは、選挙で拡散しやすい偽・誤情報を時期や標的ごとに分類している。

政党・候補者を標的とする偽情報には、選挙で自分の陣営を有利にしたい、対立候補を落としたいなどの意図がある。選挙制度やメディアを標的とするのは、選挙に対する不満や不信、民主主義の信頼を損ねる狙いなどがある。

JFC"総選挙で拡散した/する偽・誤情報への「情報のワクチン」【解説】"

この他にも候補者や政党が根拠のない主張や誤った情報を流すこともある。事実を確認するためには、根拠や関連情報の確認が必要となる。今回の選挙からファクトチェックを始めた報道機関も多いので、それらも参考になる。

ファクトチェックの普及を目指すNPOファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)は、今回の参院選に関して各団体のファクトチェック記事を紹介するページを設けている。

FIJ"参院選2025ファクトチェック

出典・参考

株式会社ムサシ”有価証券報告書2025年3月期”, https://www.musashinet.co.jp/ir/docs/data/yuho2025_4q.pdf(閲覧日2025年7月7日)

JFC“開票機器大手「ムサシ」の筆頭株主は安倍晋三氏で票を操作? 選挙のたびに拡散する誤情報【ファクトチェック】”,2024年10月24日, https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/false-claim-abe-major-shareholder-vote-machine/ (閲覧日2025年7月7日)

日テレ”【それって本当?】“期日前投票は書き換えられる”SNS投稿相次ぐ 「投票箱」に密着、わかったことは…”,2025年7月4日, https://www.youtube.com/watch?v=pYtdxvYHYJ8 (閲覧日2025年7月7日)

JFC“期日前投票はブラックボックスで不正し放題? 各選管で厳重な対策【ファクトチェック】”, 2024年10月31日, https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/false-early-voting-fraudulent/(閲覧日2025年7月7日)

大阪市”投票Q1-8”, (閲覧日2025年7月7日)

JFC"総選挙で拡散した/する偽・誤情報への「情報のワクチン」【解説】", 2024年10月12日, https://www.factcheckcenter.jp/explainer/politics/explainer-prebunking-election-disinformation/(閲覧日2025年7月7日)

FIJ"参院選2025ファクトチェック”, (閲覧日2025年7月7日)

検証:古田大輔
編集:根津綾子


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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党首討論CM中に石破首相がアナウンサーを恫喝? 恣意的な切り貼り【#参院選ファクトチェック】

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参政党・神谷代表「戸籍がシンプルに」「選択的夫婦別姓で治安が悪化」? 戸籍の根幹に影響なし【#参院選ファクトチェック】

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参院選開始、各社が続々とファクトチェック/検証5本・関連15本など【今週のファクトチェック】

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参院選が始まりました。昨年の兵庫県知事選を受けて、多くの新聞やテレビなどの報道機関がファクトチェックの取り組みを始め、次々と記事が出ています。対象には、ネットに拡散している真偽不明の言説もあれば、候補者や政党の発信もあります。多くの研究によって、人は誤った情報を目にしてもそれが間違っていると気が付かないということがわかっています。誤った情報に基づいて投票したり、棄権したりすることは民主主義を歪めます。日本ファクトチェックセンターでも、積極的に検証・解説記事を出していきます。(古田大輔) ※冒頭にミニコラムをつけるようにしました。ご意見・ご感想などはこちら。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催していま

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大地震の前にトカラ地方で群発地震が発生する「トカラの法則」? 科学的根拠なし【ファクトチェック】

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鹿児島県・トカラ列島付近で群発している地震は大地震の予兆の「トカラの法則」だという情報がYouTubeなどで拡散していますが、誤りです。群発地震が大地震の予兆だという科学的根拠はありません。 検証対象 2025年6月∼7月、トカラ列島付近で地震が群発していることに関連して「トカラ列島の地震には『トカラの法則』というものがある」「トカラ列島で群発地震があった後、日本で巨大地震が起きる」という情報が複数のプラットフォームで大量に拡散している(例1,2,3,4)。 投稿について「とても勉強になります」「参考になりますね」などのコメントの一方で「恐怖を煽るのは、止めなさい」などの指摘もある。 検証過程 トカラ列島での群発地震 鹿児島県のトカラ列島では、2025年6月21日から7月1日までに700回を超える震度1以上の地震が群発的に続いている。(朝日新聞"トカラ列島の地震700回超す 悪石島では崖から砂煙も、男性が撮影”)。 この群発地震にあわせて、ネット上では大地震の予兆であるかのような情報が拡散した。 動画の内容と「トカラの法則」 トカラ列島で群

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