通勤手当に課税? あらたに課税される予定はない【ファクトチェック】

通勤手当に課税? あらたに課税される予定はない【ファクトチェック】

政府が通勤手当に課税するという情報が拡散しましたが、誤りです。通勤手当はすでに課税対象ですが、15万円の非課税限度枠があるため、多くの人は対象になりません。また、2025年6月4日現在、政府があらたに課税を検討しているという事実はありません。

検証対象

2025年5月27日、「通勤手当に課税」という投稿がXで拡散した。2025年6月5日現在、投稿は1.6万回以上リポストされ、表示は614万回を超えている。

投稿には「通勤時間も労働時間に入れてくれれば反対しない」や「通勤費が所得な訳ねーだろ」などのコメントのほか「通勤手当への課税を検討している事実はありません」という指摘もある。

同様の情報はYouTubeやTikTokでも拡散した(例1例2例3)。

検証過程

拡散した投稿はまとめサイトの記事 

拡散した投稿には、まとめサイトJapanNewsNaviの「【石破政権】通勤手当への課税について説明『通勤手当は労働の対象』『差が出るのは不公平』→意味不明すぎて大炎上!」という記事のリンクがついている。

記事には、2025年3月18日に参議院予算委員会で、立憲民主党の村田享子議員が通勤手当について「社会保険料の計算上、通勤手当を報酬から除くべきでは」と質問した内容が書かれている。

通勤手当への課税は

給与所得者に対し支給される通勤手当や通勤定期券などは、現在の制度で課税されている。ただし、一定の限度額までは非課税だ。

電車やバスなどの交通機関だけを利用して通勤している場合、非課税限度額は「最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額」とされている(国税庁「タックスアンサー(よくある税の質問)No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当」)。

具体的には、1か月当たり15万円を超える場合に、超えた部分が課税される。月に22日通勤すると仮定すると、1日約6800円までは非課税だ。

つまり、多くの人の通勤手当は非課税だ。

拡散した投稿で取り上げられた国会での議論は

まとめサイトが転載した記事は、2025年3月18日に参議院予算委員会に関して報じており、通勤手当について「報酬に含まれる」という厚労省の見解について書いている。

拡散した投稿には、これを理由に「通勤手当に課税を検討」という主張をしているものもある。

政府は否定

政府は、通勤手当にあらたに課税するという情報について、これまでに何度も否定している。

松野官房長官(当時)は、2023年7月26日の記者会見で「政府税調の答申において、通勤手当については、あくまで、主な非課税所得の例示として記載しているにすぎず、具体的な見直しの方向性を指摘しているものではない」と否定(7月26日(水)午前-内閣官房長官記者会見 動画3分52秒~4分6秒)。

岸田首相(当時)も、2023年7月25日、首相官邸で自民党の宮沢洋一税制調査会長と面会した際、通勤手当への課税などを含むサラリーマン増税は「全く考えていない」と否定している(産経新聞東京新聞)。

2025年6月4日現在、通勤手当にあらたに課税するという情報や報道はない。

判定

政府が通勤手当に課税するという情報が拡散した。しかし現在、交通機関を使って通勤する人の通勤手当は15万円まで非課税で、2025年6月4日現在、政府があらたに課税を検討しているという事実はない。よって、誤りと判定する。

出典・参考

国税庁."タックスアンサー(よくある税の質問)No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当".https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2582.htm,(閲覧日2025年6月2日)

政府広報オンライン."令和5年7月26日(水)午前-内閣官房長官記者会見”.https://www.gov-online.go.jp/prg/prg27091.html,(閲覧日2025年6月2日).

産経新聞."岸田首相「サラリーマン増税考えず」自民税調会長と一致".2023年7月25日.https://www.sankei.com/article/20230725-7OM2DKTMBJOFFP4MQSENTXOW2Y/,(閲覧日2025年6月2日).

東京新聞."「サラリーマン増税」政府与党が必死に「否定」した事情 通勤手当や退職金が狙われ、ネットで批判広がる".2023年7月30日.https://www.tokyo-np.co.jp/article/266615,(閲覧日2025年6月2日).

検証:根津綾子
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

温暖化や水害はメガソーラーのせい? 「誤り」や「根拠不明」、さらなる調査が必要な例も

温暖化や水害はメガソーラーのせい? 「誤り」や「根拠不明」、さらなる調査が必要な例も

記録的な猛暑が続く2025年夏、SNSでは「異常な温暖化の原因はメガソーラー」「熊本の水害はメガソーラーによる人災では!?」など、温暖化や水害の原因をメガソーラーだと批判する投稿が多数拡散しています。地球温暖化対策のはずのメガソーラーがなぜ、批判の対象となっているのか。本当に災害の原因になっているのか、解説します。 そもそもメガソーラーとはなにか 私たちの暮らしを支える電気には、いろいろなつくり方があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。 火力発電は、燃料さえあれば天候などに左右されずに安定供給ができ、発電所の建設コストが安いというメリットがあります。一方で、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を排出し、燃料を輸入に頼っているため、国際情勢や価格の影響が大きいというデメリットがあります。 風力発電は、CO2を排出せず、燃料が不要で夜間も発電できるというメリットがあります。一方で風力によって発電量が不安定になり、騒音問題などもあり設置場所に制約があります。 水力発電も、CO2を排出しません。国内に豊富な水資源があり、燃料を輸入する必要もありま

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
葛西臨海水族園で木を伐採してソーラーパネル施設? 屋上を活用、樹木数は倍以上の計画【ファクトチェック】

葛西臨海水族園で木を伐採してソーラーパネル施設? 屋上を活用、樹木数は倍以上の計画【ファクトチェック】

「東京都の葛西臨海水族園でも600本の木々の森を伐採して、巨大なソーラーパネルを載せた施設の建設が始まりました」という投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。600本が伐採されるのは事実ですが、パネルは新しい水族園建物の屋上を有効活用するために設置されるもので、パネル用施設を作るわけではありません。森の伐採も工事後は植栽で以前の倍以上の本数になる予定です。 検証対象 2025年8月15日、「東京都の葛西臨海水族園でも600本の木々の森を伐採して、巨大なソーラーパネルを載せた施設の建設が始まりました」「いくら太陽光発電しようと、自然破壊しては意味がない」という投稿がXで拡散した。 9月8日現在、投稿は1.6万回以上リポストされ、表示は307.9万件を超える。 投稿には「ここは人工ながらも自然を取り戻そうと様々な努力がされ、時間をかけて木が茂り、川や池には色々な生物が住む豊かな場所となりました。しかしメガソーラーがそれを破壊しました」「自分たちの時代だけ、よければいいのでしょうか 何十年、何百年と続く森がいかに大切か」というソーラー施設への批判的なコメン

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
自民党・小泉進次郎氏が80歳からの年金支給を提案? 誤情報の再拡散【ファクトチェック】

自民党・小泉進次郎氏が80歳からの年金支給を提案? 誤情報の再拡散【ファクトチェック】

自民党の小泉進次郎衆院議員が「年金支給を80歳からにすると提案した」という情報が拡散しましたが、不正確です。現在の制度では受給開始を60~75歳までの間で繰り上げ・繰り下げが可能です。小泉氏は「80歳まで選択肢を広げる」という考えを述べただけで、80歳からの支給を義務づける趣旨の発言ではありません。過去にも拡散した誤情報です。 検証対象 2025年9月6日、「小泉進次郎の年金支給年齢80歳案は、国民殺しのクソ提案だと思う人〜🖐️」という投稿が拡散した。 9月8日現在、この投稿は9900件以上リポストされ、表示回数は493万回を超える。投稿について「なんで平均寿命迄年金貰え無いんだよ」「80は正気の沙汰ではないぞ」というコメントの一方で「年金を貰い始める年齢の上限を80歳にするのはどうかという提案」という指摘もある。 検証過程 過去の誤情報の再拡散 日本ファクトチェックセンターは以前も同様の投稿を検証し、「不正確」と判定している(JFC.”小泉進次郎氏「年金受給は80歳から」? 開始年齢の選択肢を広げる発言【ファクトチェック】”)。 また、XのA

By 木山竣策
「根拠不明」だと検証になっていない?/JFC検証7本、動画など【今週のファクトチェック】

「根拠不明」だと検証になっていない?/JFC検証7本、動画など【今週のファクトチェック】

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、検証結果の判定基準を「正確」「ほぼ正確」「根拠不明」「不正確」「誤り」の5段階に分類しています(JFC"JFCファクトチェック指針")。 ソーシャルメディア上で時折見かけるのが「『根拠不明』というのは正確なのか誤りなのか、判定になっていないじゃないか」という批判です。 最近、JFCが「根拠不明」と判定したファクトチェックの一つに、日航123便墜落事故に関するものがあります。40年前の事故について航空事故調査委員会が公開している修理ミスによるものという調査を否定し、「実は撃墜された」という投稿がYouTube動画などで拡散しました。 日航123便墜落事故で機長が「被弾したぞ」と発言? 記録も音声も根拠もなし【ファクトチェック】1985年に起きた日本航空123便墜落事故について、「完全版ボイスレコーダー」と称する動画がXやYouTubeで拡散しています。機長が「2機の戦闘機が追い抜いていったぞ!」「被弾したぞ」「本当に撃ちやがった」などと発言したと主張していますが、根拠不明です。国の航空事故調査委員会がまとめ、全文を公開している事

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は9月20日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0920.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどの

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)