安倍元首相の被災地訪問はスタジオ撮影?加工された画像が繰り返し拡散【ファクトチェック】

安倍元首相の被災地訪問はスタジオ撮影?加工された画像が繰り返し拡散【ファクトチェック】

安倍晋三元首相が在任当時に被災地を訪問する様子はスタジオで撮影されたものだとする画像が拡散しましたが、加工されたもので誤りです。この画像は国内外で繰り返し拡散しています。

検証対象

2024年9月7日、「初めてこの写真見た時の衝撃は 今も記憶に残ってます メディア  TV📺  国の  嘘つき❗️」との投稿がX(旧Twitter)で拡散した。

投稿には画像が添付されている。画像の上部には防災服を着た安倍元首相が避難所とみられる場所で女性の手を握っている様子が映っているが、下部は複数の人がいるスタジオに組まれたセットの中で安倍元首相と女性の姿を撮影している写真だ。

2つの画像の間には「安倍晋三首相は17日午前、台風19号による河川氾濫などで甚大な被害が出た福島県を訪れた。一帯が冠水した郡山市の工業団地で被害状況を視察。避難所となっている同市内の小学校では被災者らから要望を聞いた」などと書かれた記事の一部も映っている。

この画像は、何度も繰り返し拡散している(例1例2例3例4)。

投稿には「コラ画像」「悪質なフェイク」といった多くの批判が寄せられているが、一方で「え?初めて見た!ドラマの撮影ですか⁇」「これがもし事実ならこの写真を撮って晒した人物が誰なのかが気になる そしてその方の安否が心配」「安倍元総理に疑問を持った一枚です」などのコメントがあり、この画像を信じてしまう人が一定数いることを示している。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)はこの画像について2023年3月に検証し誤りと判定しているが、再度検証する。

安倍元首相の被災地訪問の様子はスタジオで撮影された?【ファクトチェック】
「安倍晋三元首相が被災地を訪問する様子はスタジオで撮影されたものだ」とする画像が何度も拡散していますが、これは加工された画像で誤りです。 検証対象 2019年の台風17号の被害を受けた被災地を、当時、首相だった安倍晋三氏が訪問した様子について「スタジオで撮影されたものだ」とする画像は、これまでに何度も拡散してきた(例1、例2)。画像は次の2枚で「スタジオで撮影された」と主張している。 ツイッターなどでは「裏切られた」「茶番劇」などのコメントがつき、信じる人が一定数いることが分かる。 InFactは同様の検証で、各ニュースサイトの記事を取り上げながらこの画像とブログの内容を「誤り」と判定している。 検証過程 元動画を探してみる YouTubeで「安倍首相 台風19号」と検索すると、2019年10月17日に投稿されているテレ東BIZ「安倍総理 台風被災地を視察」やANNnewsCHの「安倍総理、福島・郡山を手始めに台風被災地を視察」というニュース動画が見つかる。それぞれの動画やサムネイル画像に写る女性は、服装などから、検証対象の画像に写った女性と同一

画像は2019年に福島県で台風の避難所を訪問した際のもの

検証対象の画像の上半分の部分を「Googleレンズ」で画像検索すると、アングルは違うものの安倍元首相や同じ服装の女性が写った2019年10月17日の首相官邸サイト掲載の写真や同日の朝日新聞の記事が見つかる。

首相官邸サイトによると、2019年に安倍首相(当時)が台風19号の被害視察に赴き、福島県郡山市の避難所を訪問した際のものだ。この訪問の様子はテレビ東京テレビ朝日も報じている。

検証対象の画像を検証

加工されたと見られる下の画像の細部を拡大して検証すると、不自然な部分を複数箇所見つけることができる。

複数の報道や首相官邸の広報写真などには、安倍元首相と女性の2人以外にも内閣府や郡山市の職員、他の被災者も映っているが、検証対象の画像にはそれらの人物は映っていない。

また、安倍元首相と女性の背後には衣類が掛けられたり生活用品が置かれており、奥行きがあるにも関わらず、検証対象の画像では2人の背景の上部が不自然に直線的だ。

これらの点から判断すると、この画像は安倍元首相と女性がいるところだけを切り抜いてスタジオで収録している画像に合成したフェイク画像だ。

検証対象の画像は過去に何度も拡散しており、ファクトチェックも受けている。

InFactは捏造された画像で「虚偽」と判定している。また、海外では台湾のファクトチェック団体「 MyGoPen」も検証している。

判定

安倍晋三元首相が在任当時に被災地を訪問する様子はスタジオで撮影されたものだとする画像は誤り。安倍元首相と被災女性の写真を切り抜いて合成したフェイク画像で、捏造されたものだ。

あとがき

今回の検証対象の画像はこれまでに何度も拡散した典型的な陰謀論で、災害が起きた際や自民党政権を批判する文脈で使われてきました。事実か疑わしい画像を見つけたときには、画像検索などで同じ画像がないか検索したり、拡大して不自然な部分がないかを自分自身で見極めることが大切です。

JFCでは偽画像の検証手法についてまとめています。JFCがYouTube上で公開しているファクトチェック講座もご覧ください。

偽画像をファクトチェック GoogleレンズやTinEyeの使い方【JFC講座 実践編3】
日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第2回は、検証の最大の武器である「検索」についてでした。第3回は偽・誤情報でよく見かける画像の検証についてです。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) 画像検証で重要なのはオリジナル探し 画像を使った偽・誤情報で多いのは、例えば、過去の画像を現在のものとして使ったり、オリジナルを改変したりする事例です。 そこで重要になるのが、検証したい画像と似ている画像を探す「画像検索」です。簡単なツールを知っているだけで、オリジナル画像を効率的に探すことができます。 JFCとGLOCOMが実施した2万人調査では、画像検索をする人は偽情報に気づきやすく、拡散しにくいことがわかりましたが、実践している人はわずか6.7%。画像検索を知らない人が多いのが現状です。 Google画像検索の使い方 まずは最も手軽に使えて強力なGoogle画像検索を説明します。実際の検証記事をもとに説明します。 反原発デモの空撮、報道されなかった?別のデモの写真【ファクトチェック】「反原発デ

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

地震のたびに拡散する「人工地震説」や「地震予知」は何が間違っているのか 専門家が解説

地震のたびに拡散する「人工地震説」や「地震予知」は何が間違っているのか 専門家が解説

大きな地震が起きるたびにインターネット上では「人工地震だ」とか「予知されていた」「次の地震は〇月〇日」などの情報が拡散します。科学的な根拠はなく、これまでに日本ファクトチェックセンター(JFC)は何度も「誤り」と検証してきました。次の拡散を防ぐために、JFCは東京大学地震研究所/情報学環・学際情報学府の酒井慎一教授に改めて解説してもらいました。 地震予知は可能? Q「30年以内に地震が発生する確率は何十%」といった長期的な予測は政府も公表します。一方で、大きな地震が起きると「巨大地震は予知されていた」とか「次の地震は〇月〇日」など、日付や場所を特定した「予言」が拡散します。このようなピンポイントの地震予知は現代の科学で可能なのでしょうか。 できません。地震のメカニズムは、今でも多くのことが分かっていません。多くの人はプレート(岩盤)同士が押し合い、跳ね返ったり壊れたりして地震が起こると考えていますが、実際はもっと複雑です。地震は地下にある断層面にそって、岩盤同士が急激にズレることで起こります。断層面はでこぼこしており、触れ合っている岩盤と岩盤が摩擦力で固着し

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
伊東市長選挙は不正選挙だった? 画像は市議選、選挙不正の根拠なし【ファクトチェック】

伊東市長選挙は不正選挙だった? 画像は市議選、選挙不正の根拠なし【ファクトチェック】

2025年12月14日投開票の伊東市長選挙をめぐり、開票作業で不正があったと示唆する画像付きの投稿が拡散していますが、誤りです。根拠とされた画像はそもそも市長選ではなく市議選のもの。伊東市選挙委員会は開票作業について「不正はなかったと認識している」と話しています。 検証対象 検証する投稿 12月15日、「伊東市長選挙は不正選挙が行われていた?」という画像付き投稿が拡散した。画像には、票が積み上げられた画像と共に「TVで放送された卓上に積み上がっている票束の高さと選挙管理委員会から発表の票数差に不安を抱きました」と書かれている。 検証する理由 この投稿は戸田市議会議員の河合ゆうすけ氏によるもので、12月18日現在、290件以上リポストされ、表示回数は23万回を超える。 「あると思います」「不正しちゃってるね…」と同調するコメントがつく一方で「意に沿わない結果は何でも不正なのか」という指摘もある。 検証過程 伊東市長選と拡散した画像 伊東市長選挙は、学歴詐称疑惑で2度の不信任決議を受けた田久保真紀前市長の失職に伴い14日に投開票され、田久保氏

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
ユースファクトチェック選手権優勝の大学生チームが語る検証能力を鍛える鍵 「普段の生活でも使える能力ばかり」

ユースファクトチェック選手権優勝の大学生チームが語る検証能力を鍛える鍵 「普段の生活でも使える能力ばかり」

高校生や大学生ら若者世代を対象に情報検証スキルを競う「ユースファクトチェック選手権」。日本、台湾、タイ、インド、モンゴルの各国内大会を勝ち上がった計25チームによる世界大会が12月13日に開かれ、日本から参加したチームが優勝しました。 選手権はGoogleが運営していた前身の大会を引き継ぐ形で、アジアのファクトチェック団体が協力して昨年から開催。日本では日本ファクトチェックセンター(JFC)とメディア情報リテラシー教育に取り組む学生スタートアップ「Classroom Adventure」が共催しています。 75チーム194人が参加した国内大会を首位で勝ち抜き、世界大会では昨年上位を独占した台湾のチームを抑えて優勝したチーム「YAYO-SAN」の2人、札幌大谷大1年の渡辺魁哩さん(20)と北海道大2年の千葉蛍太さん(20)に検証スキルを鍛える秘訣と大会の感想を聞きました。 昨年大会の経験活かし、生成AIで「自主練」 昨年の大会に「軽いノリで参加した」という渡辺さんが、今度は本気でやってみようと誘ったのが、高校の同級生の千葉さんでした。 教育学を専攻する千葉

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
御堂筋線の看板から韓国語と中国語がなくなった? 繰り返し拡散する誤情報【ファクトチェック】

御堂筋線の看板から韓国語と中国語がなくなった? 繰り返し拡散する誤情報【ファクトチェック】

大阪の地下鉄御堂筋線の看板から韓国語と中国語がなくなったという情報が拡散しましたが誤りです。画像は梅田駅の看板ですが、もともと日本語と英語表記のみでした。繰り返し拡散する誤った情報です。 検証対象 拡散した投稿 2025年12月10日、「大阪梅田の御堂筋線 韓国語と簡体語(中国語)が無くなりスッキリ見やすくなりましたか?」という画像付き投稿が拡散した。 画像には「梅田・新大阪・江坂・箕面萱野方面」と日本語と英語で書かれた看板が写っている。 検証する理由 12月15日現在、この投稿は2400件以上リポストされ、表示回数は51万回を超える。投稿について「やったね大阪メトロ」「公明党の国交大臣いなくなったため」というコメントの一方で「これまでも2か国語表記だったことに注意が必要です」というコミュニティノートがついている。 検証過程 画像は御堂筋線のなんば駅上りホーム 拡散した投稿には「大阪うめだの御堂筋線」と書かれているが、画像は御堂筋線のなんば駅だ。看板の後ろにローソンと電車が写っており、御堂筋線のローソンを検索すると、大阪メトロ内のローソン

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は12月20日(土)午後2時~3時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1220.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)