トランスジェンダーの競泳選手が「男性に戻ることを願っている」は誤り【ファクトチェック】

トランスジェンダーの競泳選手が「男性に戻ることを願っている」は誤り【ファクトチェック】

アメリカのトランスジェンダー競泳選手リア・トーマスさんが「目標を達成し、男性に戻ることを願っている」という言説が拡散しましたが、誤りです。本人の発言ではなく、風刺や冗談や皮肉を掲載するサイトの情報が元になっています。

検証対象

拡散しているのはアメリカのトランスジェンダー競泳選手リア・トーマスさんが、女性の競泳大会で活躍した後、「目標を達成したので男性に戻ること」を願っているという言説(例1例2)。

例えば、拡散されたツイートには、女性の競泳試合の表彰式らしき画像が添付され、以下の文言が記されている。

“2019年に男子から女子に転向して以来、数々の記録を打ち立ててきたトランスジェンダー競泳選手のリア・トーマス…すべての目標を達成した彼女はいま男性に戻ることを願っている。”

画像

投稿は2023年5月29日時点で150万回以上表示され、6000RTを超えている。返信欄には「いい加減にせぇっ」、「これは、ドーピングと同じ扱いにすべきね。」などの反応があった。

Reutersはすでに検証記事を公開し、誤りであると判定している。また、今回の検証対象であるツイートの投稿者は、4月26日に自ら「自分の書いた内容がフェイクニュースだった可能性がある」とスポーツ記事を配信するインドのWebサイト・sportskeedaの検証記事を引用して追記している。日本でもファクトチェック団体のリトマスが誤りと判定した

検証過程

リア・トーマス選手のものとされる発言は元々、Patriot Party Pressというアメリカのジョークサイトの記事から発信されたもの。このサイトの会社概要ページには「network of parody, satire, and tomfoolery(パロディ、風刺、ジョークを扱うネットワーク)」であると記載されている。

また、ツイートに添付されている写真は2022年3月17日にトーマス選手がトランスジェンダーとして史上初のNCAA競泳チャンピオンになったときのもの。1位のトーマス選手と距離を開けて、2位のエマ・ワイアント選手、エリカ・サリバン選手、ブルック・フォード選手が記念写真を撮影している瞬間を捉えており、当時、トランスジェンダーのトーマス選手の優勝に抗議して、他の選手たちが別の表彰台を作ったという言説が拡散された。

しかし、サリバン選手、フォード選手は共にトーマス選手の競技への参加に賛成している。サリバン選手によると、一緒に写真を撮影した3人は東京オリンピックで一緒に戦った仲間で、公式の記念写真撮影後に別に撮ったものだとインスタグラムでコメントしている。

判定

リア・トーマス選手が「男性に戻ることを願っている」という言説はジョークサイトの記事をもとにしたもの。また、添付された写真は文脈を無視して拡散している。以上のことから、誤りと判定した。

あとがき

今回の写真は合成などではなく、実際に撮影されたものです。このように本物の写真でも、違う文脈で掲載することで誤情報/偽情報となることがありますので注意が必要です。

検証:堀口野明
編集:古田大輔

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

政治関連の偽・誤情報の拡散/SNS規制求める声/AIがもたらす危機【注目のファクトチェック】

政治関連の偽・誤情報の拡散/SNS規制求める声/AIがもたらす危機【注目のファクトチェック】

✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 衆院補選の影響もあり、政治関連の偽・誤情報が拡散しました。こういった状況を受けて、各社の世論調査ではSNS規制を求める声が高まっています。法的な規制には、言論の自由への悪影響も懸念されており、慎重な議論が必要ですが、同時にAIなどで広がる危機への素早い対策も求められています。 JFCのファクトチェック記事 「衆院補選、8時に当確はおかしい、不正選挙だ」は誤り 衆院補選について「開票が始まっていないのに当確が出たのは不正選挙」という言説が拡散しましたが、誤りです。報道各社が事前取材と有権者への調査などに基づいて投票締め切り直後に当選確実を報じたもので、一般的な手法です。 「衆院補選、8時に当確はおかしい、不正選挙だ」は誤り 出口調査や事前の取材によるゼロ票打ち【ファクトチェック】衆院補選について「開票が始まっていないのに当確が出たのは不正選挙」という

By 宮本聖二, 古田大輔(Daisuke Furuta)
(動画)「トランプ前大統領が『岸田首相はグローバリストの操り人形』と発言」は誤り 生成AIによる映像【ファクトチェック】

(動画)「トランプ前大統領が『岸田首相はグローバリストの操り人形』と発言」は誤り 生成AIによる映像【ファクトチェック】

トランプ前大統領が「岸田首相はグローバリストの操り人形でビジョンもリーダーシップもない」と発言している動画が拡散しましたが、誤りです。AIによって作られた音声と映像です。 検証対象 2024年4月29日に、X(旧Twitter)でアメリカのトランプ前大統領が岸田首相をおとしめるような言葉を語る動画が拡散した。この25秒の動画の中でトランプ氏は、「日本の総理大臣の岸田文雄は、大変災難なことに、グローバリストの操り人形(パペット)にすぎず、ビジョンもリーダーシップのスキルもない、日本を愛するナショナリスト安倍晋三とは大違いだ」などと英語で話している。 この動画と内容をテキストにした投稿は、71万を超える閲覧、2800以上のリポストがある。「バイデンのいいなりだ」「その通り」など賛同の書き込みがある一方で「言ってることは良いけど音声とリップシングが少し同期外れる瞬間があるね」「AIだろAI」などと指摘する書き込みも多い。 検証過程 この25秒の動画は途中に4ヶ所の編集点があって、5つのカットがつなぎ合わされている。注意して見ていくと同じ5秒ほどのカットが繰り

By 宮本聖二
「大阪では8%以上が高校に進学せず中学が最終学歴」は誤り 大阪府の統計では98%以上が進学【ファクトチェック】

「大阪では8%以上が高校に進学せず中学が最終学歴」は誤り 大阪府の統計では98%以上が進学【ファクトチェック】

「大阪では高校に進学せず中学が最終学歴になる生徒が既に8%を超えている」という言説が拡散しましたが、誤りです。2023年度の大阪府の統計によると、中学校卒業者の高校等進学率は98.5%です。 検証対象 2024年4月27日、X(旧Twitter)で「大阪では高校に進学せず中学が最終学歴となる生徒が既に8%超え」というポストが拡散した。併せて「数年先には確実に10%を超えると言われている」「1割もの生徒が高校に進学しないなんて大阪だけ」とも主張し、大阪府の教育行政を批判している。ポストには吉村洋文・大阪府知事のニュース記事のリンクも付いている。 拡散したポストは約3000件のリポストを獲得し、15万回以上表示されている。 リプライや引用リポストでは大阪維新の会の政策を批判する意見が多数ある一方で、出典を示すように求める声もある。 検証過程 大阪府が2024年1月に公開した「令和5年度(2023年度)大阪の学校統計」の「II 卒業後の状況調査」では、2023年度の大阪府の高等学校等進学率は98.5%(男子98.5%・女子98.6%)で、前年比0.1ポイン

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
(画像)「トランプ氏が『キシダというのはどこがいいんだ?』と発言」は不正確 文脈無視の切り抜きでミスリード【ファクトチェック】

(画像)「トランプ氏が『キシダというのはどこがいいんだ?』と発言」は不正確 文脈無視の切り抜きでミスリード【ファクトチェック】

米国のトランプ前大統領が、2024年4月24日(日本時間)に自民党の麻生太郎副総裁と会談した内容について「キシダというのはどこがいいんだ?」と発言したとする画像が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。発言には続きがあり、投稿はテレビ番組の一部を切り取っています。 検証対象 2024年4月28日、米国のトランプ前大統領が、麻生副総裁との会談で「岸田のどこがいい?」と発言したとする言説がX(旧Twitter)で拡散した。投稿には、テレビ画面のような画像が添付され、右上に「日曜報道」とロゴがある。 画面には麻生氏が「岸田首相をよろしく」と述べ、トランプ氏が「シンゾーは素晴らしかった でもキシダというのはどこがそんなにいいんだ?」と返している様子が描かれている。 このポストは4000件以上のリポストを獲得し、630万回以上表示された。リプライや引用リポストで「バイデン民主党の下僕がトランプ大統領に気に入られるはずがない」「トランプも流石に岸田の無能さとそれを信じ続ける無能な国民に呆れてんだろうね」などと岸田首相を批判するコメントが相次ぐ一方で、「切り取り」と指

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)