熱湯で殺菌されるから輸入紅茶は細菌検査されない?【ファクトチェック】

熱湯で殺菌されるから輸入紅茶は細菌検査されない?【ファクトチェック】

「紅茶は熱湯で淹れる際に殺菌されるから、水出しという飲み方は想定されておらず、日本に輸入されるときに細菌の検査はない」という言説が拡散しましたが、不正確です。日本に輸入されるときに細菌検査がないのは事実ですが、厚生労働省は「現時点で紅茶の病原微生物リスクが確認されていないから」と説明しています。

検証対象

「紅茶は日本に輸入されるときに農薬の検査はされるが細菌の検査はしない。熱湯で淹れて飲むことが前提なので熱湯により殺菌されるから」「水出しという飲み方は想定されていない」というコメントとともに、グラスに茶色い液体が入った画像を埋め込んだツイートが拡散した。7月7日現在、表示回数が966万回以上、リツイート件数が6660件以上となっている。

画像

返信欄ではツイートした本人が「水出しOKな商品もあります」と補足している。「コーヒーは必ず【焙煎】って過程を経るけどお茶は基本的にないのか」との声がある一方で、「デマ撒き散らすの楽しいか?」など反論するコメントもある。

検証過程

検証対象のツイートで述べられている「水出し」とは、冷水で茶葉を抽出する飲み方のことだ。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、以下の2点について検証した。

  1. 紅茶は日本に輸入されるときに農薬検査はするが細菌検査はしない
  2. 検査をしない理由は、熱湯で淹れて飲むことが前提で、熱湯によって殺菌されるため

厚生労働省食品監視安全課輸入食品安全対策室は、海外から食品を輸入する際の検査について以下のように説明した。

「食品等を輸入する場合、日本の食品衛生法の規定に基づき、輸入の都度、厚生労働大臣に届け出ることが義務づけられています。この届出について全国の海空港に配置された検疫所で内容を審査し、食品衛生法に定める規格や基準に適合しているかの確認をし、過去の食中毒などを考慮して必要に応じて検査を実施しています。食品衛生法に定める規格や基準等に適合しない場合、輸入はできません」

農薬検査については「茶葉の栽培課程で使用された農薬が日本の基準値を超えて残留することが想定されますので必要に応じたモニタリング検査等を実施」するという。

「細菌検査は、紅茶独自の製法等や国内外での食中毒の発生状況等を勘案の上、現時点において、病原微生物のリスクについては探知されていないことから、モニタリング検査等は実施しておりません」

つまり、紅茶輸入の際に細菌検査はしていないが、それは「熱湯で殺菌されるから」ではなく「現状ではリスクが探知されていないから」ということだ。

水出し紅茶のリスクについて、JFCは水出し紅茶葉を販売するエカテラ・ジャパンにも話を聞いた。まず、製造方法については以下のように説明する。

「水出し紅茶で使用されている茶葉は、一般的なお湯で出す茶葉と製造方法が異なることが多いと考えられます。メーカーによって様々ですが、理由は『水出しに適した製品規格にするため』で、代表的な例として微生物規格が挙げられます」
 
「喫食の際、加熱工程があるかどうかで微生物規格の設定方法は変わります。その観点では、紅茶は熱湯を注いで飲用される食品であるため、その喫食方法も加味した微生物規格を各社が設定していると考えられます。また現在は法律上、水出し用紅茶原料に対する微生物規格は明確に定義されたものが存在しないため、各社が自社基準に基づいた運用を行っています」

各社で製造方法は異なるという前提の上で、細菌のリスクとその対応について、以下のように述べた。

「微生物は食品に存在してはならないもののように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。目に見えないだけで食品や飲料に含まれるものをはじめ我々の生活空間に多く存在し、一切の微生物を喫食シーンから排除することは不可能です。一言に微生物と言っても多くの種類が存在し、いわゆる食中毒の原因となるのはこの一部に限られます。そのためメーカーは食品の特性や喫食のされ方に応じて、微生物規格(種類や上限量)を管理しています」

「水出し製品に限らず、抽出したお茶は長期保管せずに可能な限り速やかに消費する、ということが注意点です」

判定

紅茶が日本に輸入されるとき、細菌の検査はない。しかしその理由は、過去の食中毒等危害の発生状況等を考慮し、現時点で紅茶の病原微生物リスクが確認されていないからだ。そのため、不正確と判定した。

検証:鈴木刀磨
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

パンデミック条約でワクチン強制接種? 繰り返し否定されている誤情報【ファクトチェック】

パンデミック条約でワクチン強制接種? 繰り返し否定されている誤情報【ファクトチェック】

感染症の世界的な流行(パンデミック)への対策を強化する「パンデミック条約」をめぐり、「ワクチンを強制接種させる」などの情報が繰り返し拡散していますが、誤りです。条文案にそうした文言はなく、世界保健機関(WHO)などが繰り返し否定しています。 検証対象 2025年4月14日、「ヤバいって WHOのパンデミック条約がもう来月採択へ。 条文の原文には 『加盟国には監視・警戒システムの強化を要請』 『加盟国はワクチンの定期接種を強化・実施する』などが記載 まさに監視・ワクチン接種強制社会への下準備」という投稿が、「『パンデミック条約』条文案を大筋合意 WHO 来月の採択を目指す」と伝えるNHKニュースの画像と共に拡散した。 4月30日現在16万を超える閲覧があり、リポストは2200以上。「WHO脱退しないとね」「憲法違反じゃないの?」といったコメントのほか「強制接種、義務化はないと思います。そんなの無理です」といった指摘もある。 検証過程 パンデミック条約とは WHO加盟国が、感染症対策を世界的に強化する目的で議論している条約。感染症が発生した際の情報共有

By 宮本聖二
フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

「フランス入国の際の優先レーンから日本が外されたようだ」という情報が拡散しましたが、誤りです。2025年4月30日現在、日本は優先レーンの対象国です。 検証対象 2025年4月19日、埼玉県戸田市議・河合ゆうすけ氏が「フランスに入国する際、イミグレーションの優先レーンから日本が外されたようだ。日本のパスポートを持った中国人(帰化した人)が増えたからではないかと言われている」などと主張する投稿がXで拡散した。投稿には、フランス・パリの空港と思われる画像が添付されている。 投稿は4月30日現在、3700回以上リポストされ、表示回数は112万を超える。投稿には「治安だけは良かったのにその治安もパァ」「自公政権のお陰ですね」などのコメントのほか、「根拠がない」というコミュニティーノートの指摘もある。 検証対象の投稿が拡散するひと月ほど前にも、同様の投稿があった(2025年3月19日)。「フランスに入国しようとしたら優先自動ゲートが開かず、担当者に文句を言ったら『日本だけ撤廃した。向こうの中国人の列に並んで』と言われた」などという内容で「虚偽のポストの疑い」というコ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

「トランプ政権が社会福祉コストを精査したら、記録上で200歳以上が数万人もいた。戸籍制度が完備してる日本ではあり得ない」などという言説がXで拡散しましたが、不正確です。トランプ氏が演説でふれた200超歳の高齢者の記録は1041人分。また、亡くなった人が戸籍上生存したままになっている「高齢者所在不明問題」は日本でも起きています。 検証対象 2025年4月24日、「トランプ政権でDOGEが社会福祉コストの精査を行ったら、記録上で200歳以上が数万人もいたという話は、戸籍制度が完備してる日本ではあり得ないこと」という投稿がXで拡散した。 投稿は2025年4月28日現在、1万回以上リポストされ、表示は308万件を超える。投稿には「母が亡くなった時戸籍を取り寄せたら、江戸時代末期まで遡った記録が送られてきて驚いた」「ほんと、そう。無くすべきではない」などのコメントのほか、「日本でも何年か前にそういう事ありましたよ」という指摘もある。 検証過程 トランプ氏「220~229歳が1039人」 第2次トランプ政権は、財政赤字の削減を目指し、社会保障費の削減に取り組ん

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
文京区の中学校はクラスの半分が中国人? 外国籍の生徒割合は約4%【ファクトチェック】

文京区の中学校はクラスの半分が中国人? 外国籍の生徒割合は約4%【ファクトチェック】

東京都文京区では中学校のクラスの半分が中国人だという情報が拡散していますが、誤りです。文京区教育委員会によると、文京区立中学校の外国籍生徒の割合は約4%です。 検証対象 2025年4月19日、「文京区では中学校のクラスの半分が中国人」という投稿が拡散した。 この投稿は1万件以上リポストされ、表示回数は124万回を超える。投稿について「都内は恐ろしい状況なんだ」「マジでやばいでしょ」というコメントの一方で「どこの中学校の話をされてるんですか?」という指摘もある。 検証過程 東京都文京区の人口は2025年4月1日現在、23万5380人(前月比298人増)。そのうち中国人を含む外国人全体の人口は1万5821人(前月比17人減)で6.7%だ(文京区「人口統計資料」)。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、文京区教育委員会学務課に取材した。 文京区内に10ある区立中学校の外国籍の生徒について、学務課学事係は「国別の人数は把握しておりません。外国籍生徒の総数は104人で、これは全生徒2,341人の約4%です(令和6年5月1日現在)。そのため、特定の国籍の

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)