アメリカ産のミニマムアクセス米は除草剤などで健康に影響? 輸入時に安全検査

アメリカ産のミニマムアクセス米は除草剤などで健康に影響? 輸入時に安全検査

「アメリカ産のミニマムアクセス米には、除草剤・殺虫剤等が頻繁に使われていて健康に影響がある」という趣旨の投稿がXで拡散しましたが、誤りです。アメリカ産に限らず、政府が輸入するコメは、農林水産省と厚生労働省が安全検査をしており、基準に満たないコメは輸出国に送り返したり、廃棄したりしています。

検証対象

2025年6月6日、「アメリカ産のミニマムアクセス米には、除草剤・殺虫剤等が頻繁に使われている」という趣旨の投稿がXで拡散した。

投稿には、ニュース番組のような動画が添付され、小泉進次郎農水相が「備蓄米を使い終わったら、ミニマムアクセス米も含め、あらゆる選択肢を考えてコメ価格の高騰を落ち着かせる」などと話している。

また、動画には「ミニマムアクセス米という、除草剤、殺虫剤等の農薬が頻繁に使われていて、発がん性、内分泌かく乱作用、生殖能力への影響などの懸念があり、生態系への影響も指摘されているアメリカ産米」という文言も添えられている。

コメントには、「日本人の身体どうなってしまうんだろう?」や「米国の生産者は残留農薬のことなんてアタマにありませんから」などの意見のほか、「ミニマムアクセス米は、農薬等の安全基準については輸入時に、厚生労働省の輸入検疫や、国と商社の買入委託契約等による検査を行っており、基準を満たさないものは購入されません」というコミュニティーノートの指摘もある。

ミニマムアクセス米には除草剤・殺虫剤等が頻繁に使われていて健康に影響があるという主張は、YouTubeやTikTokなどでも拡散している(例1例2)。

検証過程

拡散した動画は「報道ステーション」の一部

拡散した投稿の添付動画は1分14秒だ。テロップの色やスタイルから、テレビ朝日『報道ステーション』の特集の一部であるとわかる。

ANNnews公式YouTubeで、投稿日以前の特集を探すと「“備蓄米”5日からコンビニでも 銘柄米に輸入米…変わるコメの流通現場」)という動画が見つかった。番組は、政府備蓄米がコンビニの店頭にも並ぶなど、コメの流通現場の最新事情を伝えている。

小泉農水相は6月3日、参院農林水産委員会で、備蓄米について「仮に備蓄米を全部放出して、その後どうするかについては、ミニマムアクセス米の活用も可能であります」などと述べている(参議院農林水産委員会2025年6月3日 4時間7分28秒~)。その点については、拡散した投稿の主張通りだ。

ミニマムアクセス(MA)米とは

投稿にある「ミニマムアクセス(MA)米」とは、ガット・ウルグアイ・ラウンド合意(WTO協定)に基づき、1995年度以降、日本が海外から最低限輸入しなければならない無関税の輸入米のことだ(農水省"コメの輸入制度")。

2024年度、日本は米国からMA米として玄米換算で34万6,000トンのコメを輸入した(農水省"米をめぐる状況について"p154)。MA米の枠外で、民間貿易によって輸入したコメの国別データはないが、日本が諸外国からMA枠外で輸入したコメの総量(白米・玄米・もみ殻付きなどを含む)は、2024年度(1月末時点)で991トン、2023年度が368トンだ(同p157)。

つまり、日本がアメリカから輸入しているコメのほとんどがMA米だ。

輸入米の安全性は農水省と厚労省が検査

アメリカ産に限らず、政府が輸入するコメは、安全性を確保するため、残留農薬等の検査が義務づけられている。

政府は、輸入米について、輸出国と日本国内で計2回の検査をしている。

輸出国での検査は農水省が担当。農水省によると、現地で商品を包装する際、一部を抜き取って検査する。概ね1000トン又は400トン単位で検査し、合格したものを船積みする。

検査は、かび毒や残留農薬、重金属(カドミウム、鉛)などが基準値を下回っていること、未承認の遺伝子組換え米が含まれていないかなどを確認する(農水省 "輸入米麦のかび毒、重金属及び残留農薬等の検査")。

コメが日本の港に到着すると、厚労省が検査をする。厚労省によると、輸入量、健康への影響などを考慮し、統計的に信頼できる数の検査を実施している。合格しなかったコメは、輸出国等へ送り返すか、廃棄や食品以外に転用したりするという(厚労省"令和5年度における輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果")。

また、輸入時検査等で食品衛生法違反となった事例は、厚労省のサイトで公開されている(厚労省"輸入時における輸入食品違反事例")

つまり、ミニマムアクセス米は、米国産も、それ以外の国も、安全性が認められたコメしか流通していない。

判定

小泉農水相が仮に備蓄米を全部放出した場合、「ミニマムアクセス米の活用も可能だ」と述べた部分は拡散した投稿の主張通りだ。ただし、「アメリカ産のミニマムアクセス米には、除草剤・殺虫剤等が頻繁に使われていて健康に影響がある」という部分は、誤り。アメリカ産に限らず、MA米は、農水省と厚労省の安全検査を受けており、基準に満たないコメは流通していない。

出典・参考

ANNnews テレビ朝日「報道ステーション」.「“備蓄米”5日からコンビニでも 銘柄米に輸入米…変わるコメの流通現場」.https://youtu.be/rCVLbv5ogL4?si=6nq1vTVoodqHQWqj,(閲覧日2025年6月6日).
参議院.インターネット審議中継.農林水産委員会.2025年6月3日.https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php,(閲覧日2025年6月11日).
農林水産省.”コメの輸入制度”.https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/attach/pdf/230731-68.pdf,(閲覧日2025年6月6日).
農林水産省.”米をめぐる状況について”. 2025年3月.https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokuryo/attach/attach/pdf/250326-15.pdf,(閲覧日2025年6月6日).
農林水産省.”輸入米麦のかび毒、重金属及び残留農薬等の検査”.https://www.maff.go.jp/j/seisan/boeki/beibaku_anzen/zannou.html,(閲覧日2025年6月6日).
厚生労働省.”令和7年度輸入食品等モニタリング計画Ⅰ 輸入食品等モニタリング検査実施要領(共通事項)”https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/001467033.pdf,(閲覧日2025年6月6日).
厚生労働省.”令和5年度における輸入食品監視指導計画に基づく監視指導結果”.https://www.mhlw.go.jp/content/11135200/001297262.pdf,(閲覧日2025年6月6日).

検証:根津綾子
編集:藤森かもめ、古田大輔


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