能登地方の大雨で濁流に飲まれる車? 中国の豪雨災害の映像【ファクトチェック】

能登地方の大雨で濁流に飲まれる車? 中国の豪雨災害の映像【ファクトチェック】

「石川県輪島市役所前が大変なことになっている」という文章とともに、複数の自動車が濁流に飲まれている映像が拡散しましたが、誤りです。動画は、中国河南省で起きた過去の豪雨被害の様子です。

検証対象

2024年9月21日、石川県に大雨特別警報が発令され能登地方を中心に川の氾濫や土砂崩れが相次ぎ、大きな被害をもたらした。26日現在、死者11人が確認されている(NHK)。

大雨の最中の9月21日、街が濁流に飲まれる映像とともに「能登北部に大雨特別警報発表」「輪島市役所前が凄いことになってる」などと書かれた投稿が拡散した。

この投稿は30万を超える閲覧数がある。「能登半島豪雨の映像ではありません」「完全にフェイク画像です。看板に中国語が表示されています。」といった映像の内容を否定するコメントが数多く投稿されている。

検証過程

この動画をGoogle レンズで検索してみると、同じ映像がテレ朝ニュースでみつかる。「中国・河南省の豪雨 死者302人」というタイトルのニュースで、2021年8月2日に配信されている。

映像につけられた日本語の字幕では、7月20日の映像で、「中国のSNSから」とある。

拡散した動画で見えている看板はいずれも中国語で、右上には中国のネットポータルの「微博」の文字が見える。

投稿者のアカウント名にはMustafaとあり、このアカウントによる過去の投稿を見ると、その多くをトルコ語で書いており、海外からの投稿と考えられる。

判定

濁流に飲まれている複数の自動車の映像に、「石川県輪島市役所前が大変なことになっている」という文章のついた投稿が拡散したが、誤り。映像は、中国で3年前に起きた豪雨被害の様子だ。

あとがき

災害が起きた時、過去の別の災害被害の映像を使った投稿が拡散します。こうした投稿には、海外のユーザーでも翻訳機能を使うことで違和感のない日本語の文章を容易につけることができます。

被害が予想される時、あるいは実際に被害が出ている時に、事実と異なる映像が拡散すれば避難や救援活動などに混乱をもたらします。

災害時に驚くような映像を見た時は、検索をして確認してみることが必要です。日本ファクトチェックセンター(JFC)では、動画や画像の検索手法を身につけるための講座を公開しています。参考にしてください。

偽動画をファクトチェック InVIDやYouTube検索のコツ【JFC講座 実践編4】
日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第3回は、偽・誤情報でよく見かける画像の検証についてでした。第4回は増加傾向にある偽動画の検証について解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) 動画の検証もオリジナル探しが鍵 動画は画像と並んで画像と並んで偽・誤情報に用いられやすい形式です。過去の災害動画を現在のものとして使ったり、オリジナルを改変したり、生成AIで捏造したりと、手法も偽画像と共通しています。 検証の手法も動画と画像と同様にオリジナルを探すことが鍵となりますが、Google画像検索のようなシンプルな検索ツールが動画にはありません。 ここでのポイントは動画も、タイトルなどのテキストや、サムネイルなどの画像で管理されているということです。これを利用してオリジナルを探します。 動画の検証 Googleレンズ 実際の事例を元に解説します。 (能登半島地震)過去の津波映像や人工地震説など【ファクトチェック】2024年1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする最大震度7の

検証:宮本聖二
編集:古田大輔、藤森かもめ、野上英文

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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