地震のたびに拡散する「人工地震説」や「地震予知」は何が間違っているのか 専門家が解説

地震のたびに拡散する「人工地震説」や「地震予知」は何が間違っているのか 専門家が解説

大きな地震が起きるたびにインターネット上では「人工地震だ」とか「予知されていた」「次の地震は〇月〇日」などの情報が拡散します。科学的な根拠はなく、これまでに日本ファクトチェックセンター(JFC)は何度も「誤り」と検証してきました。次の拡散を防ぐために、JFCは東京大学地震研究所/情報学環・学際情報学府の酒井慎一教授に改めて解説してもらいました。

地震予知は可能?

Q「30年以内に地震が発生する確率は何十%」といった長期的な予測は政府も公表します。一方で、大きな地震が起きると「巨大地震は予知されていた」とか「次の地震は〇月〇日」など、日付や場所を特定した「予言」が拡散します。このようなピンポイントの地震予知は現代の科学で可能なのでしょうか。

できません。地震のメカニズムは、今でも多くのことが分かっていません。多くの人はプレート(岩盤)同士が押し合い、跳ね返ったり壊れたりして地震が起こると考えていますが、実際はもっと複雑です。地震は地下にある断層面にそって、岩盤同士が急激にズレることで起こります。断層面はでこぼこしており、触れ合っている岩盤と岩盤が摩擦力で固着しているから、普段は動きません。でも岩盤に力が働いてひずみエネルギーが溜まると、岩盤同士の摩擦力がそのひずみエネルギーに耐えられなくなって、断層面が急激に滑り出す。それが地震です。

酒井教授の説明をもとにJFCがAIで作成

断層面の固着状態は、ひずみエネルギー以外の影響も受けます。たとえば、断層面に水のような流体が入ると断層面が浮いて摩擦力が小さくなり、同じ力でも動きやすくなります。地震の発生は、ひずみエネルギーの増大だけでなく、断層面の固着状態も大いに影響することになります。そのため、地震を予知しようと思ったら、断層面の状態を詳しく確認する必要があります。でも断層面は、地下何十キロという深いところにあるため、今の技術では認知できません。

地下の状況を把握するのは、宇宙より難しいと言われています。火星なら表面を見られるし、物質を採取もできます。けれども、地下は、人類がこれまでに一番深く掘ったロシアのコラ半島超深度掘削坑でも、約13km。温度や圧力などの問題で、それ以上掘るのは難しいのです。

気象現象や動物の行動は地震の予兆?

Qクジラが海岸に打ち上げられたとか、身近な動物が騒ぐことを、大地震の予兆だと主張する人もいます。

地震がなくてもクジラは打ちあがるし、犬は騒ぎます。もし、そのような現象から地震を予知するのであれば、ひとつの事例だけでなく、もっと長期にわたって統計を取り、分析する必要があります。信頼できるデータに基づいた統計処理で、そのような結果をこれまでに見たことはありません。

大きな地震の前兆だとされる、広く多くの人々に認知される自然界(動植物等)の普段とは異なる現象を「宏観(こうかん)異常現象」と呼びます。

宏観異常現象に基づき地震予知ができたとされる世界的に知られている唯一の地震は、中国で1975年に起きた海城地震です。この地域では、地震発生の数か月前からたびたび有感地震が発生する中で、井戸水の水位の変化や家畜の異常行動のような宏観異常現象が多数見られ、行政府の指示で人々を屋外に避難させたために犠牲者が減ったと言われています。ただ、「政府の情報操作があった」という話もあり、正確なところは分かりません。このような宏観異常現象が地震の発生に繋がるのかは、科学的には証明されていません。

Qいわゆる「地震雲」や太陽フレアなど、気象や天体の現象が地震の予兆となることはありますか?

それも科学的に分かっていません。ただ、天体の現象で最も影響がありそうなのは「地球潮汐(ちょうせき)」です。太陽や月の引力によって、地球自体が毎日伸びたり縮んだりして、地面にも力が加わります。それが「最後のひと押し」となって地震が起きるという説があります。

実際に満月や新月の前後に地震が多いという統計結果に基づく研究はあります。でも、満月の日に必ず地震が起きるわけではありません。「今日は満月だから危ない」と予知できるような、単純な関係ではありません。

大地震は人工的に起こせる?

Q大地震が起きると必ずと言っていいほど「HAARP(高周波活性オーロラ調査プログラム)で人為的に地震を起こした」などと主張する「人工地震説」が拡散します。

先程も説明したように地震とは「地下の断層面のズレ」です。人工地震を起こすためには、断層面をズラさなければなりません。

HAARPの詳細を知りませんが、もし地下深くの断層面に影響を与えて、ピンポイントで摩擦(ひっかかり)を壊せるのなら、断層運動を起こせるのかもしれません。けれども、私たちは断層面の正確な位置すら把握できていません。はっきりとわからない断層面を特定して、その断層面の摩擦状態の分布を把握した上で、そのカギとなる部分をピンポイントで壊すことは極めて難しいでしょう。

Q核兵器などを使えば、人工地震を起こせますか?

大地震をゼロから起こすには、途方もないエネルギーが必要です。広島型の原爆ですらマグニチュード6級の地震と同程度でしか地表を揺らすことができません。

地震を起こすことができるとすれば、巨大なエネルギーで揺らすのではなく、今にも動きそうな断層面の摩擦状態に変化を与えて、「断層面を滑りやすくする」ことです。もし、HAARPに断層の摩擦を下げるような能力があれば、小さな力でも地震を誘発できるかもしれませんが…考えにくいですね。

Q人工的な揺れと自然地震の揺れの違いは、エネルギーの大きさ以外にありますか?

決定的な違いは「S波」が出るかどうかです。地震の波には、進行方向と同じ方向に振動するP波と、進行方向に対して垂直に振動するS波があります。ダイナマイトのような爆発現象では、中心から外へドカンと「押す」力しかないため、基本的にP波しか発生しません。S波を作るには「ズレ」の動きが必要です。

自然の地震は断層面が「ズレる」現象なので、P波だけでなく、必ずS波も発生します。つまり、S波が観測されれば自然の地震によるものだと分かります。

ただ観測する場所によっては、断層面の向きによってS波が弱く出る方位もあります。人工地震かどうかを見極めるためには、周辺の複数の観測点のデータから「どこで観測してもP波しか出ていない」ことを確認して初めて、「これは人工的な爆発の可能性が高い」と判断できるのです。

編集:古田大輔、藤森かもめ

(サムネイル画像はAIで生成)


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

中道改革連合のロゴが中国の中革連にそっくり? 新党発表後に作られた偽ロゴ【ファクトチェック】

中道改革連合のロゴが中国の中革連にそっくり? 新党発表後に作られた偽ロゴ【ファクトチェック】

2026年1月16日に立憲民主党と公明党が結成した新党「中道改革連合」のロゴについて、「中国の中革連とほぼ同じ」などという主張が拡散しましたが、誤りです。拡散した「中国の中革連のロゴ」は、新党がロゴを発表した16日より後に作られたものと見られます。新党は「中道改革連合とは一切関係ありません」「悪意ある改変や虚偽の示唆については厳正に対応する」などと注意を呼び掛けています。 検証対象 拡散した言説 2026年1月21日、「ホントにそっくり」という文言付きの画像がXで拡散した。 右の画像が新党・中道改革連合のロゴだ。左側には赤地に黄色で「中革連」と書かれた色と星のデザインが中国の国旗に似たロゴが並べられている。左右のロゴは中心の円形のデザインが似ている。 検証する理由 2026年1月21日現在、投稿は2万回以上リポストされ、表示は652万件を超える。 戸田市議の河合ゆうすけ氏による、「中国の中革連とほぼ同じロゴなのはなぜ?」という文言付きの同様の画像投稿もあり、影響範囲が大きいため、検証する。 検証過程 ネタ元は掲示板サイトのパロディ画像

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
ネットを有効活用して投票するために/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

ネットを有効活用して投票するために/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

衆院選に関する情報発信が増えるとともに、ネットで検索する人も増えてきました。選挙の際に投票の参考にするメディアとして、新聞やテレビよりもネット、それも動画やSNSをあげる人が上回るようになっています。 非常に便利な道具ですが、便利さが生む落とし穴があります。「情報プラットフォーム」に集まる膨大な量の情報を整理する「アルゴリズム」がどのように働いて「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」を生み、人間の「バイアス」とどのように作用するのか。 これらの言葉はデジタル社会を生きるうえで必須と言える基礎的な知識ですが、日本ファクトチェックセンター(JFC)が電通総研と実施した情報インテグリティ調査によると、残念ながら多くの人は理解をしていません。解説する記事を書いたのでぜひ御覧ください。 JFCでは衆院選の期間中、集中的に選挙や政治に関わるファクトチェックや解説を発信していきます。インターネットを有効活用し、偽・誤情報や根拠のない言説の影響を避けて投票するためにも、ぜひ、ご活用ください。(古田大輔) ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
英利アルフィヤ氏が議員なのに本名を隠している? ブログで公表【ファクトチェック】

英利アルフィヤ氏が議員なのに本名を隠している? ブログで公表【ファクトチェック】

自民党の衆院議員・英利アルフィヤ氏が「議員であるにも関わらず本名を非公表にしている」という趣旨の言説が、YouTubeやXなどで度々拡散していますが、誤りです。英利氏は本名を公表しており、自身のブログで詳細に説明しています。 検証対象 拡散した言説 英利氏が本名を隠しているという言説は、これまで度々拡散している(例1,2,3)。「えりアルフィアは通名で本名は非公開」などという内容だ。 検証する理由 英利氏は2022年6月6日付けの自身のブログで、本名について説明している。しかし、その後も「本名を隠している」という投稿が繰り返し拡散しているため、検証する。 検証過程 英利氏の本名は非公表? 例1は、2023年10月に日本保守党の結党記者会見をした代表の百田尚樹氏が、同党設立前の2023年4月21日に配信した動画だ。現在も公開されており、視聴回数は20万回を超える。百田氏の主張のポイントを以下に抜粋する。 「通名は選挙で認められているが、本名が非公開なのは日本選挙史上おそらく初めて」 「国会議員になる人間が本名非公開ってこんなばかげたことな

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
【衆院選】その支持、本当に自分の考え? バイアスとネットが作る「情報の壁」を破る方法

【衆院選】その支持、本当に自分の考え? バイアスとネットが作る「情報の壁」を破る方法

2月にも投開票と報じられている衆議院選挙の期間はわずか13日です。短い時間で誰に投票するか決めるため、政党や候補者名を検索する人も多いでしょう。ネットの情報は役に立ちますが、落とし穴もあります。偽・誤情報が多いというだけではありません。便利なだけに危険な罠の存在を知っていますか? ネットという両刃の剣を理解するキーワード 選挙の際に、新聞やテレビよりもネットの情報を頼りにする人が増えています。2024年の兵庫県知事戦では、NHKの調査で投票の際に最も参考にしたものとして「SNSや動画サイト」が30%、「新聞」「テレビ」が各24%でした。この傾向は今後、さらに強まるでしょう。 メディアのニュースだけでなく、候補者本人や各陣営や著名人や一般ユーザーの投稿が絶え間なく流れるSNSやYouTubeなどの動画プラットフォームは非常に便利です。欲しい情報を検索することもできますし、気になるアカウントをフォローして継続的に見たり、お勧め記事を次々と読むこともできます。 しかし、その便利さの裏に大きな落とし穴があります。キーワードは「確証バイアス」「情報プラットフォーム」

By 古田大輔(Daisuke Furuta)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は1月24日(土)午後2時~3時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0124.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)