海外にまたがる検証ーー当事者や公的機関に広く確認しても、突破できなかった壁とは【ファクトチェックの舞台裏】

日本ファクトチェックセンター(JFC)が検証作業の舞台裏を語るコラム。第4回は、取材先が国内外にまたがり、検証が難しかった事例を紹介します。どうやって公開にこぎつけたのか、なぜ記事に出来なかったのかを振り返ります。
大使館から学校まで個別に当たって記事に
2023年4月、「朝鮮学校に通う子どもは将来アメリカに留学できなくなる」という投稿が拡散しました。

JFC ”朝鮮学校に通う子どもは将来アメリカに留学できなくなる?【ファクトチェック”
JFCは、米国大使館や米国務省に投稿の真偽を聞き、法律や制度も含めて取材しましたが、はっきりとした回答は得られませんでした。そこで、北朝鮮の団体や学校関係者にも取材したところ、神奈川朝鮮中高級学校では、過去10年間に少なくとも4人が米国に留学していることがわかりました。
「アメリカに留学できなくなる」という投稿を「誤り」と判定することも検討しましたが、学校が取材に対して「理由の詳細はわからないが、ビザが下りなかったケースもある」とも説明したため、「不正確」と判定しました。
検証をする時、公的機関などへ取材するだけではわからないこともあります。法律や制度上は明確なルールがなくても、運用によって制限されている可能性もあるからです。
この検証は、アメリカ政府だけでなく、当事者である学校側にも取材したことで、実情の一部を確かめることができました。
ガザ住民は基本的にハマスを支持?
イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘から1年が経った頃に、「ガザ住民は基本的にハマスを支持している」という投稿が拡散しました。
スタッフが「パレスチナ政策調査研究センター」や専門家、各メディアの世論調査をもとに実態を調べましたが、調査をする人や質問内容、時期によって、支持率が変わることが分かりました。
また、「ハマスによる越境攻撃の支持・不支持と、政党としてのハマスの支持・不支持は分けて考えるべきだ」という専門家の意見もありました。
そのため、ファクトチェックという形で検証するのは難しいと判断して、掲載を見送りました。
「検証が遅い」という批判
JFCへ「検証が遅い」という声をいただくことがあります。
私たちも疑わしい情報を見つけたら、できるだけ早く記事を公開しようと努めています。実際にJFCの設立当初と比べると、個々の検証記事を公開するペースは短くなり、検証記事の本数は月10本から40本ほどに増えました。
それでも、取材先から十分な情報が得られず、次の取材先を探したり、何度もやりとりを重ねる作業は地道で時間がかかります。そうした裏側も知っていただけると嬉しいです。
出典・参考
“朝鮮学校に通う子どもは将来アメリカに留学できなくなる?【ファクトチェック】”.日本ファクトチェックセンター. 2023年4月18日.https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/diversity/inaccurate-claims-on-children-attending-korean-schools-being-unable-to-study-abroad-in-the-us/ .閲覧日2025年7月9日
編集:根津綾子、古田大輔
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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