日本政府が75歳以上の中国人観光客に対するビザ申請要件を撤廃? 緩和の発表はあったが撤廃していない【ファクトチェック】

2025年6月30日、「日本政府が中国人観光客に対する75歳以上のビザ申請要件を撤廃した」という投稿がXで拡散しましたが、誤りです。2024年12月、岩屋毅外務大臣が、中国人の観光ビザに関する発給要件を緩和すると発表したのは事実ですが、撤廃ではありません。また、2025年7月1日現在、緩和は始まっていません。
検証対象
2025年6月30日、「日本政府が中国人観光客に対する75歳以上のビザ申請要件を撤廃した」「従来は、75歳を超えると同行者の同伴や追加の健康診断書が必要でしたが、それらがすべて撤廃されました」という情報がXで拡散した。

2025年7月1日現在、リポストは1.9万回、表示回数は874万件を超える。投稿には「迷惑でしかない」「どういう大義でその判断がなされてるのか全く理解できない」などのコメントや、「外務省が6月26日に公開している件でしょうか。『75歳以上』はどこに記載があるのでしょうか」という指摘も寄せられている。
検証過程
中国人の訪日にはビザが必要
外国籍の人が日本を訪れる場合、日本のビザを取得する必要がある。中国はビザ免除国でないため、中国籍の人が日本を訪れる場合には、短期滞在や就労・長期滞在、医療滞在など、渡航目的に応じたビザが必要だ(在中国日本国大使館”査証(ビザ)申請関連情報”)。
拡散した投稿は「中国人観光客に対する75歳以上のビザ申請要件を撤廃」と述べている。これは「観光ビザ」を指していると思われる。
申請には一定の要件あり
外務省のサイトによれば、中国籍の個人観光一次ビザ(団体観光ではない個人観光用ビザ)は、次の条件に当てはまる人に発給される。
「『一定の経済力を有する者とその家族』及び「中国国内大学であり,中国教育部が公表するリストに掲載されている普通科本科を有する全大学に在籍する学部生,研究生(博士・修士在籍者)又は同校卒業後3年以内の卒業生』」(外務省"中国団体観光・個人観光ビザ”)。
拡散した投稿は「従来は、75歳を超えると同行者の同伴や追加の健康診断書が必要でした」と述べているが、観光ビザの要件に年齢や同伴者、健康診断書に関する記載はない。
医療滞在ビザにも年齢要件はない
拡散した投稿は、中国人の「日本での『医療し放題』が可能になる」とも述べている。
外務省のサイトによると、観光ビザとは別に、日本の医療機関を利用する目的で訪日する外国人患者・受診者等とその同伴者に対して発給される「医療滞在ビザ」がある。
申請には、日本で受診等が予定されていることを証明する『医療機関による受診等予定証明書及び身元保証機関による身元保証書』や、経済力を証明するための銀行残高証明書等の提出が必要だ。しかし、年齢に関する記述はない(以上、外務省”ビザ 『医療滞在ビザ』に係る外国人患者等受け入れ医療機関の皆様へ”)。
岩屋外相 要件緩和方針打ち出すも 実施見込み立たず
2024年12月、岩屋外相は北京で、中国人向けのビザを緩和すると表明したものの、自民党内から反発があり、2025年7月1日現在、緩和措置は実現していない。
報道によると、富裕層向けに10年間有効な観光ビザを新設し、65歳以上の中国人に限り、個人向けのビザで在職証明書の提出を不要にするなどの内容を盛り込んだ措置で、春ごろの運用開始を目指した(日経新聞2024年12月25日、NHK2024年12月25日)。
しかし、自民党内から異論が続出(産経新聞2025年1月1日、共同通信2025年1月24日)。2025年7月1日現在、緩和措置は実施されていない。
また、岩屋外相は2025年4月16日の衆院外務委員会で、中国人の観光滞在ビザについて、3月の国会答弁で「観光査証の免除」と発言したのは、「緩和」だったと訂正した(衆議院 第217回国会 外務委員会 第7号(令和7年4月16日(水曜日))。
判定
「日本政府が中国人観光客に対する75歳以上のビザ申請要件を撤廃した」という投稿がXで拡散した。2024年12月、岩屋外相が中国人の観光ビザに関する緩和措置を発表したのは事実だが、要件が撤廃されたわけではない。また緩和は2025年7月1日現在、始まっていない。よって誤りと判定する。
出典・参考
出入国管理庁. “出入国審査・在留審査Q&A” .https://www.moj.go.jp/isa/immigration/faq/kanri_qa.html, (閲覧日2025年7月1日).
在中国日本国大使館.”査証(ビザ)申請関連情報”.令和5年5月31日.https://www.cn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/visa.html, (閲覧日2025年7月1日).
外務省."中国団体観光・個人観光ビザ”.平成31年1月1日,https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/visa/topics/china.html, (閲覧日2025年7月1日).
外務省. ”中華人民共和国 第2回日中ハイレベル人的・文化交流対話”.令和6年12月25日https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/c_m1/cn/pageit_000001_01408.html,(閲覧日2025年7月1日).
日経新聞.”中国富裕層に10年観光ビザ新設 岩屋外相、北京で表明”.2024年12月25日https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA245OH0U4A221C2000000/, (閲覧日2025年7月1日).
NHK."岩屋外相 訪日中国人観光客向けビザの発給要件など緩和の方針”.2024年12月25日.https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241225/k10014678881000.html, (閲覧日2025年7月1日).
産経新聞.”岩屋外相の中国人ビザ緩和表明、自民から異論 青山氏「議論ゼロ」有村氏「賛意得られぬ」”.2025/1/1.https://www.sankei.com/article/20250101-MSFKEGH7ZFEPFOHB3EGRYTMSKQ/,(閲覧日2025年7月1日).
共同通信.Yahoo!ニュース."対中ビザ緩和「多分に誤解ある」 岩屋外相、自民党内からの異論に”.2025年1月24日.https://news.yahoo.co.jp/articles/915aa00d684c7fcf4495b239dd6707c7c167467b, (閲覧日2025年7月1日).
衆議院. “第217回国会 外務委員会 第7号(令和7年4月16日(水曜日)”.https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000521720250416007.htm,(閲覧日2025年7月1日).
衆議院. “第217回国会 外務委員会 第4号(令和7年3月28日(金曜日)”.https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000521720250328004.htm#p_honbun,(閲覧日2025年7月1日).
検証:根津綾子
編集:藤森かもめ、古田大輔
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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