中国人留学生は学費がほぼ無料? 政府奨学金は各国からの留学生の2.8%【ファクトチェック】(修正あり)

中国人留学生は学費がほぼ無料?  政府奨学金は各国からの留学生の2.8%【ファクトチェック】(修正あり)

「日本人が奨学金を借りると、就職後に借金を返さなければならないが、中国人留学生は学費がほぼ無料」という趣旨の投稿が多数拡散していますが、ミスリードで不正確です。日本政府の奨学金をもらって入学金や授業料が免除される国費留学生は留学生全体の2.8%、中国人はそのうち1割弱です。ほとんどの留学生は学費を負担しています。

検証対象

拡散した言説

日本へ来た中国人留学生は学費が免除されて不公平だという趣旨の投稿が多数拡散している(例1,2,3,4)。

例1は2025年9月25日にTikTokへ投稿され、閲覧回数は3.5万回を超えている。42秒間の動画では、若い男女が登場し、「中国人留学生爆増!」「日本に移住すれば大学までほぼ学費が無料」「教育無償化の政策と移民受け入れとの政策とのコンボで合法的に無料にできる」「在留外国人の人数が 400 万人を超えています」などと訴えている。

2,3,4は「中国人留学生は、生活困窮をでっち上げるだけで学費免除」「中国人留学生に毎月17万円の現金を渡し 学費は免除」「自民党による中国人留学生への援助 凄いことになってる」などと主張している。

検証する理由

10月20日現在、このような投稿は、X、TikTokなど多数のプラットフォームで拡散している。「ほんとに悔しいほんとに。どうして、日本人学生を先にやらないのか」「そんな金あるなら 日本人の学生に」「国は、日本人学生を差別している」など同調するコメントが多く見られる。

検証過程

中国人留学生は「爆増」している?

拡散した動画では「中国人留学生が爆増」と主張している。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が公開しているデータを調べた(JASSO”外国人留学生在籍状況調査”)。

JASSOデータよりJFC作成

青い棒グラフが中国人留学生数、オレンジの折れ線が中国人留学生が留学生に占める割合を示す。中国人留学生の人数は、新型コロナの期間を除き、2001年度以降は概ね右肩上がりに増えてきた。最多は2019年度で、124,436人。

つまり、例1が主張する「中国人留学生爆増!」は「爆増」と言えるかは微妙だが、間違ってはいない。

一方で、JASSOのデータによると、留学生の中で中国籍者が占める割合は減っている。依然として一番多いのは中国人だが、最も多かったのは2004年度で66.3%、2024年度は36.7%だ。

留学生は学費を全額免除?

拡散した動画が主張する「大学までほぼ学費が無料」という留学生向けの制度はあるのか? 確かに、日本政府は大学の入学金や授業料を免除する「国費外国人留学生」という制度を1954年に始めた。

文部科学省の「国費外国人留学生制度について」によれば、その目的は次のとおりだ。

「海外から優秀な留学生を受け入れることにより、国際交流・友好親善の促進及び諸外国の人材育成に資するとともに、我が国における大学等の国際化の進展、それを通じた教育研究力の向上、ひいては社会全体の国際化・活性化に貢献し、我が国と世界の発展に寄与することを目的とする」

募集要項には「日本政府と国交のある国の国籍を有すること」が条件と書かれており、中国も対象に含まれる。また、留学生は日本の在外公館を通じて選ぶとも書かれている(文部科学省”2026 年度日本政府(文部科学省)奨学金留学生募集要項 学部留学生(大使館推薦)”)。

国費留学生の支給予定額は月額11万7000円(学部)、入学金・授業料は徴収せず

文科省の国費留学生向けのサイトによれば、2026年度の奨学金支給額は、学部レベルが月額11万7000円で、大学院レベルは予備教育機関・非正規生が月額14万3000円、修士課程が月額14万4000円、博士課程が月額14万5000円だ。また、教育費、大学における入学金、授業料及び入学検定料は徴収しない(文科省”2026 年度 日本政府(文部科学省)奨学金留学生募集要項 研究 留学生(大使館推薦)”、”2026 年度 日本政府(文部科学省)奨学金留学生募集要項 学部留学生(大使館推薦)”)。

つまり、国費留学生であれば入学金や授業料などの学費が免除されることは事実だ。

国費外国人留学生制度以外にも、政府が支給する奨学金はある。文科省の担当者によると、文科省の場合は2025年度、ほかに「留学生受入れ促進プログラム」「高度外国人材育成課程履修支援制度」「海外留学支援制度の中にある『協定受入』」などがあるという。

このほかにも、外国人留学生が利用できる奨学金は、大学ごとの奨学金、地方自治体や国際交流団体の奨学金、民間奨学団体や企業の奨学金などがある(東京大学”東京大学外国人留学生支援基金”、”JAPAN STUDY SUPPORT”より)。

2024年の国費留学生は留学生の約2.8%

ただ、留学生全員が授業料や入学金の免除等の支援を受けられるわけではない。JASSOによると、2024年5月1日時点の外国人留学生総数は33万6708人。そのうち国費留学生は約2.8%の9304人だった(JASSO”2024(令和6)年度 外国人留学生在籍状況調査結果”)。

また、文科省に取材したところ、2024年5月1日現在の国費外国人留学生数は9304人。国別内訳はインドネシア1163人(12.5%)、ベトナム619人(6.7%)、タイ618人(6.6%)、中国617人(6.6%)の順に多かった。

中国人は生活困窮をでっちあげれば学費免除?

拡散した投稿の中には「中国人が生活困窮をでっちあげて学費免除を受けている」という投稿もあった。

経済的理由で進学を断念せざるをえない学生を減らし、教育の機会均等を確保することを目的とした文科省の支援制度「高等教育の修学支援新制度」は確かに存在する。

しかし、「日本国籍、法定特別永住者、永住者等又は永住の意思が認められる定住者、『家族滞在』の在留資格を持ち一定の要件を満たした者であること」などという要件がある(文部科学省”学びたい気持ちを応援します 高等教育の修学支援新制度 支援の対象者”)。

文科省学生支援課に確認したところ、2024年度中に修学支援新制度の支援を受けていたのは、日本人・外国人含め約35万人。2024年度の修学支援新制度の外国籍の新規採用者数は1644名で、このうち家族滞在の枠組みで支援を受けたのは113名で約6.9%だった。同課によると、「国籍別の集計はしていない」ため、このうち中国籍の人数は不明だ。

判定

「中国人留学生は学費が免除される」「日本人学生より優遇されている」という趣旨の投稿が多数拡散している。日本政府の奨学金を受け、学費などが免除される国費外国人留学生は、2024年度のデータで、世界各国からの留学生の2.8%。2024年度の中国人留学生は123,485人で、2024年5月1日時点のデータでは、中国人の国費留学生は617人だ。つまり、ほとんどの中国人留学生は学費を負担している。その他の支援制度も採用者はごく一部にとどまるため、ミスリードで不正確と判定する。

出典・参考

JASSO.”外国人留学生在籍状況調査”.https://www.studyinjapan.go.jp/ja/statistics/enrollment/,(閲覧日2025年10月17日).

文部科学省.国費外国人留学生制度について.https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/06032818.htm,(閲覧日2025年10月17日).

文部科学省.”2026 年度日本政府(文部科学省)奨学金留学生募集要項 学部留学生(大使館推薦)”.https://www.mext.go.jp/content/20250411-mxt-kotokoku01-000041701_001.pdf,(閲覧日2025年10月17日).

文部科学省.”2026 年度 日本政府(文部科学省)奨学金留学生募集要項 研究 留学生(大使館推薦)”.https://www.mext.go.jp/content/20250413-mxt-kotokoku01-000041728_001.pdf,(閲覧日2025年10月17日).

文部科学省.”2026 年度 日本政府(文部科学省)奨学金留学生募集要項 学部留学生(大使館推薦).https://www.mext.go.jp/content/20250411-mxt-kotokoku01-000041701_001.pdf,(閲覧日2025年10月17日).

東京大学.”東京大学外国人留学生支援基金”.https://www.u-tokyo.ac.jp/adm/inbound/ja/finance-scholarships-fund.html,(閲覧日2025年10月17日).

JAPAN STUDY SUPPORT.”奨学金”.https://www.jpss.jp/ja/scholarship/,(閲覧日2025年10月17日).

JASSO.”2024(令和6)年度 外国人留学生在籍状況調査結果”.https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2025/04/data2024z.pdf,(閲覧日2025年10月17日).

文部科学省.”学びたい気持ちを応援します 高等教育の修学支援新制度 支援の対象者”.https://www.mext.go.jp/kyufu/student/daigaku.html,(閲覧日2025年10月17日).

検証:根津綾子
編集:古田大輔、藤森かもめ

修正

当初の記事では「2024年度の修学支援新制度の新規採用者数は1644名で、このうち外国籍者は113名で約6.9%だった」としていましたが、上記の通り修正しました(2025年10月20日)。


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

これまでの方法論が通用しない動画の偽・誤情報の急増にどう対応するか/JFC検証など6本【今週のファクトチェック】

これまでの方法論が通用しない動画の偽・誤情報の急増にどう対応するか/JFC検証など6本【今週のファクトチェック】

数年前までは偽・誤情報が拡散するソーシャルメディアと言えば、日本ではTwitter(現在のX)が中心でした。しかし、現在はそうではありません。YouTube、TikTokで大量の真偽不明情報が拡散するようになっています。 動画の検証は厄介です。100字程度の文字情報と違い、ショート動画でも1分程度、長いものなら1時間を超える動画は、全体を見るだけでも苦労します。その中でどこが間違っているかを特定し、検証しないといけない。 もう一つ、難点があります。文字情報であれば、そこには間違っているとしても論拠や論理がある程度は存在します。そうしないと文章として読みにくいものになるからです。 一方で動画は、抽象的な話が続いて、論拠をはっきり示さず、論理もあやふやという事例が数多くあります。「意見」なのか「事実の提示」かもはっきりしない。同じような分析は海外のファクトチェッカーからも聞かれます。 これまでのファクトチェックの方法論が通用しない動画の急増にどう対応するか。喫緊の課題です(古田大輔)。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
在留外国人の検挙割合は日本人の約2倍? 元資料の注釈を省略【ファクトチェック】

在留外国人の検挙割合は日本人の約2倍? 元資料の注釈を省略【ファクトチェック】

参政党の神谷宗幣代表が「在留外国人の検挙割合は日本人の約2倍だ」とする画像をXに投稿して拡散しましたが、ミスリードで不正確です。画像は警察庁の資料をもとにしていますが、警察庁は日本ファクトチェックセンター(JFC)の取材に「外国人と日本人を正確に比較できる統計の特定は困難」と説明しています。警察庁は神谷氏から求めがあったため、注釈付きで「統計を便宜的に分母・分子に当てはめて算出した数値を提供した」と話しています。拡散した画像は、そういった注釈を省き、単純に比較できないデータを並べています。 検証対象 拡散した言説 2025年9月20日、神谷氏が「大量の移民の受け入れは治安の維持にも影響します。警察や入管の体制ももっと強化せねば、今のやり方は必ず問題を大きくします」という文言とともに、「外国人の検挙割合は、日本人の約2倍」と書かれた画像を投稿した。 検証する理由 政党代表の投稿であり、2025年10月16日現在、この投稿は1.2万回以上リポストされ、表示回数は238万回を超える。投稿について「ほんとこれ」「移民はいったんストップして欲しい」というコメン

By 木山竣策
自民・高市早苗総裁の支持率が80%? 「女性首相誕生」に関する設問【ファクトチェック】

自民・高市早苗総裁の支持率が80%? 「女性首相誕生」に関する設問【ファクトチェック】

自民・高市早苗総裁の支持率が80%であるかのような投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。10月4-6日の共同通信による世論調査で、高市氏が首相に就けば史上初となる女性首相の誕生は「望ましい」が「どちらかといえば」を合わせて86.5%でしたが、これは「女性首相の誕生」に関する設問です。公明党連立離脱後の10日に実施された各社の世論調査は、高市氏が首相になった場合の支持率が40-50%ほどでした。 検証対象 拡散した言説 2025年10月14日、「【報道しない自由】高市さん支持率、脅威の80%」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 10月16日現在、投稿は1.5万回以上リポストされ、表示は379.6万件を超える。 投稿には「ないない・80もあったら議員会館に引きこもりはしません」「私も高市さん支持してるけど、この数字の妥当性は低そう」などの指摘の一方で、「メディアが叩けば叩くほど、国民は高市さんが国民側の人間だという事の証明となる」「民意が反映されない おかしい日本」など同調するコメントが多数ある。 検証過程 投稿はまとめサイトによ

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
岸田前首相が国民・玉木代表を「首相候補の一人」と発言? 5か月前で別の文脈【ファクトチェック】

岸田前首相が国民・玉木代表を「首相候補の一人」と発言? 5か月前で別の文脈【ファクトチェック】

岸田文雄前首相が国民民主党・玉木雄一郎代表を「首相候補の一人」と発言したかのような投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。岸田氏は確かにそのような発言をしていますが、2025年5月のことで、首班指名を間近に控えた2025年10月現在の発言とは文脈が異なります。 検証対象 拡散した言説 2025年10月13日、「【悲報】岸田文雄!何故か!玉木雄一郎を首相候補の一人だと言い出してしまう!」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 10月16日現在、投稿は1万回以上リポストされ、表示は322.4万件を超える。 投稿には「5月の話です意味合いが異なると思います」などの指摘の一方、「こういう内なる癌を自民党はいかにして自浄するか」「国民を苦しめた親中売国奴」など同調するコメントが多数ある。 検証過程 岸田前首相が発言したのは5月 岸田氏が2025年5月9日のTBSのCS番組で、国民民主党の玉木雄一郎代表について「いろいろな世論を聞くたびに、首相候補の一人だと思う」と語ったことを複数のメディアが伝えている(日経新聞2025年5月9日、毎日新聞2

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)