JFCファクトチェック講座4:実践的な検索技術 効率的にソースを探す

JFCファクトチェック講座4:実践的な検索技術 効率的にソースを探す

「検証の4ステップ」で公的機関の発信を調べるにも、ソースを探すにも、最も役に立つのは「検索」です。インターネット利用者に必須の基本スキルですが、「サーチオペレーター」などの使いこなし方や便利な検索ツールの存在を知らない人がほとんどです。基礎から解説します。

検索の仕組みを理解する

皆さんは検索結果が並ぶ仕組みを知っていますか? ここでは最も利用され、様々な検索技術を活用して効率的にソースを探せるGoogleを例に解説していきます。

Googleには検索の仕組みについて詳しく説明しているページがあります。その中で検索結果がどのように選ばれているかについて触れているのが「ランキング結果」の項目です。

画像
Googleの解説ページ

クエリとは、検索窓に打ち込む語句を指します。単語の組み合わせでも、文章でも構いません。Googleはそのクエリの意味を読み取り、関連性が高くて、質(専門性や権威性など)が良く、ユーザビリティ(読み込み速度など)が高いコンテンツを検索結果として順番に並べます。

コンテキスト(文脈)も重要です。Googleが例として挙げるのが「フットボール」。シカゴで検索するとアメリカンフットボールやシカゴ・ベアーズの情報が出てきますが、ロンドンで検索すればサッカーの情報が出てきます。

注意すべきは、Googleを含む全ての検索サービスは完璧ではないということです。ネット上には無数の誤情報/偽情報があり、検索結果のトップページにそれらが並ぶこともあります。また、検索クエリと関連性のある「広告」が表示されることもあります。それらの質が高いとは限りません。

だからこそ、検索結果をより質が高く、あなたが探している情報に絞り込んでいく技術が必要です。

検索結果を絞り込む

基本メニューを使った絞り込み

画像

Googleの検索窓の下にある基本メニューだけでもある程度の絞り込みはできます。最も手軽で使いやすいのが「ニュースに絞った検索」。気になる話題について、新聞、テレビ、出版、ネットメディアなどがどう報じているかに検索結果を絞ります。

期間指定」も使いやすいツールです。検索結果の上位には新しい情報が並ぶ傾向がありますが、ある話題についてある時期に絞って情報を収集することが可能です。

「高度な検索」を活用する

Googleの高度な検索を活用すれば、様々な要素での絞り込みが可能です。言語、地域、最終更新日時、サイト/ドメイン、検索対象の範囲、ファイル形式、ライセンスなどです。これらを使いこなせれば、自分が求める情報をかなりの確率で効率的に見つけることが可能になります。

画像

この高度な検索を別の方法で使いこなすために必要なのがサーチオペレーターの知識です。これを学べば、応用を効かせて驚くような情報も見つけられるようになります。

サーチオペレーターを活用する

サーチオペレーターは、Googleの高度な検索で活用できるような絞り込みを検索窓に特定の文字や記号を打ち込むことで実施する手法です。使用頻度が高いものを挙げておきます。

画像
  • after: ある特定の日より後に絞る
  • before: ある特定の日より前に絞
  • site: ある特定のドメインに絞る
  • filetype: 特定のファイル形式に絞る
  • inurl: URL内の文字を指定して探す
  • * ワイルドカード。どんな語句でも代用して検索する

これらはすべて組み合わせて使用することが可能です。例えば、上の画像で示している「ワクチン site:pref.fukuoka.lg.jp filetype:pdf before:2021-1-31」は「福岡県のサイト(ドメインはpref.fukuoka.lg.jp)で、ファイル形式がPDFで、2021年1月31日より前の、ワクチンに関する情報を検索する」という意味になります。

実践的な検索の手順

検索はあらゆる人にとって、重要性を増している技術です。ネットで公開される情報が増え、かつ、その中で信頼性の高い情報を見つける必要があるからです。アメリカでリテラシー教育にとりくむNews Literacy Projectは、中学1年生以上向けの教材として「Google Like a Pro(プロのように検索しよう)」を公開しています。

画像
Google Like a Pro, News Literacy Project

ここで紹介されている8つのヒントを翻訳すると、以下になります。

  1. 引用符を使う
  2. ニュースに限定する
  3. 基本的な検索オペレーターを使う
  4. 括弧を使って検索オペレーターをグループ化する
  5. 期間を区切る
  6. 特定サイトに絞る
  7. サブドメインに絞る
  8. -を活用する

ここでは、私自身が普段から使っている検索手順を紹介します。検索対象によって、いろんな検索のパターンがあるので順不同です。

site:でドメインを絞る

例えば、ワクチンであれば政府(go.jp)や厚生労働省(mhlw.go.jp)、世界保健機関(WHO、who.int)などの公式発表を最初に検索します。あらゆる情報に関して、公的機関や当事者の企業などがどういう発信をしているか、していないかを調べます。政府と厚生労働省のドメインを見ればわかるように、go.jpで調べて総務省などの情報もたくさん出てくるから、そこから厚労省に絞る、というような使い方もできます。

after:/beforeで期間を区切る

例えば、東日本大震災の発生直後に関する情報を調べたいときに、単純に「東日本大震災」と検索すると、新しいニュースや公的機関が情報をまとめたページなどが検索上位に並びます。発生直後に絞りたいのであれば、「地震 after:2011-3-10 before:2011-3-17」などと検索したほうが良いでしょう。

検索語句を入れ替え、組み合わせる

求めている情報が一度で出てくることは、ほとんどありません。検索窓に打ち込むキーワードを何度も入れ替えたり、組み合わせたりすることで、目的の情報にたどり着くことができます。

-で絞り込む

検索語句を入れ替えたり、組み替えたりするだけでなく、シンプルに必要ない検索結果を消していくのに便利なのが「-」です。例えば、インフルエンザのワクチンについて調べたいのに、新型コロナの情報が出てくる場合に「-コロナ」と打ち込みます。

英語で検索する

インターネットで最も活用されている言語は英語です。日本に関連する情報でも、英語で検索したほうが情報が見つかることがあります。例えば、在日米軍に関する情報だったり、グローバルな話題の新型コロナウイルスやウクライナだったり。英語は苦手という人も、Google翻訳DeepLを使えば、日英・英日を簡単に翻訳できます。

Fact Check Explorerを使う

ファクトチェック講座3で紹介したFact Check Explorerは非常に便利です。Googleが集めた世界中のファクトチェック記事のデータベースです。残念ながら日本はBuzzFeed Japanによるファクトチェック記事しか収集していませんが、新型コロナやウクライナなど、翻訳され、世界中に共通して広がる偽情報/誤情報が多いため、確認をおすすめします。

検索の下調べにAIを使う

予備知識がない分野を調べるときに、どこのドメインにより正確な情報がありそうか見当もつかないことがあります。そういうときは、下調べにAIを使いましょう。AIは完璧ではないので、ChatGPTBardでまず聞いてみて、それをもとに検索で確認していくことが必須です。

例えば、イギリスの高額納税者について調べようとしていて、「イギリス 高額納税者」で調べても、該当する情報が出てこないときに、Bardでイギリスの高額納税者リストを公開しているウェブサイトがあるか聞いてみると「The Sunday Times The Tax List」と教えてくれます。

調査報道にも使える

サーチオペレーターは、世界中の記者がソーシャルメディア上の調査報道にも活用しています。また、検索の際には様々なデータベースを知っておくと便利です。それらは、ファクトチェック講座8のOSINTの回で解説する予定です。

次回は、偽情報/誤情報に利用されることが多い画像の検証について解説します。

講座目次

  1. 意見や推測ではなく事実を検証する
  2. 検証は効果あり 検索やAIにも反映される
  3. 検証の4ステップ 「横読み」で効率的に
  4. 実践的な検索技術 効率的にソースを探す
  5. 画像の検証 GoogleレンズとTinEye
  6. 動画の検証 InVIDとYouTube検索
  7. AIコンテンツの検証 細部を見る
  8. 公開情報こそ重要 OSINT技術を使いこなす
  9. 国際的な標準ルール 透明性を確保する
JFC ファクトチェック講座 - 日本ファクトチェックセンター (JFC)
ファクトチェックの考え方や技術、便利なツールの活用方法を実践的に学ぶ連載です。

筆者略歴

画像

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

万博を訪れた子どもたち、肺炎で学級閉鎖が相次ぐ? そのような事実は確認できない【ファクトチェック】

万博を訪れた子どもたち、肺炎で学級閉鎖が相次ぐ? そのような事実は確認できない【ファクトチェック】

「大阪万博の会場でレジオネラ菌入り殺虫剤をまいたため、子どもたちに肺炎の症状が出て学級閉鎖が相次いでいる」という情報が拡散しましたが、根拠不明です。会場で使われた殺虫剤にレジオネラ菌は含まれていません。また、体調不良を引き起こすほどのレジオネラ属菌は検出されておらず、大阪の学校で例年より多い学級閉鎖が起きているという事実も確認できません。 検証対象 2025年6月6日、「大阪の小中学校で学級閉鎖が流行っているらしい。 それも、万博に行った子どもたちが体調不良が続出しているらしい」「暑さ対策のため地面から吹き上がるミストやウォータープラザの海水などから殺虫剤の成分(レジオネラ菌)が噴出→子どもたちが暑さ対策のミスト(殺虫剤成分含む)を浴びて後日肺炎の症状を発症」などと記した投稿が拡散した。 この投稿は2025年7月1日現在、149万回以上の閲覧回数と2700件以上のリポストを獲得している。 投稿について「後先考えずやった結果が未来の子供達にツケを負わせるとはな」「万博へ行く方は殺虫剤ミストにお気をつけて」というコメントの一方で「これはデマです」という指摘もあ

By リサーチ チーム
都議選・八王子で開票に不正? 出口調査と投票結果は異なる【ファクトチェック】

都議選・八王子で開票に不正? 出口調査と投票結果は異なる【ファクトチェック】

2025年6月22日に投開票があった東京都議会議員選挙の八王子選挙区で、参政党の候補者が落選したのは、不正があったからではないか、という主張がXで拡散しましたが、誤りです。根拠とされている情報は選挙で拡散しがちなもので、市選挙管理委員会は「不正はなかった」と説明しています。 検証対象 2025年6月27日、「東京都議選八王子で不正開票疑惑」という内容の動画が拡散した。 2025年6月30日現在、投稿は7700回以上リポストされ、表示は87万件を超える。投稿には、「徹底的に調査してほしい」や「昔だったらそんな事ないだろうだが今はそうかもしれないなあ」などのほか「八王子市の無効投票率は他の地域と比較して特に高いわけではない」というコミュニティーノートの指摘もある。 検証過程 投稿された動画は1分8秒、八王子選挙区で参政党候補者の與倉さゆり氏が落選したのは、不正開票によるものだと指摘している。 根拠は3つ。出口調査の結果と差があること、開票作業で得票数が長時間停止したこと、2598票もの無効票があったこと、を挙げている。 出口調査の結果と違うから不正?

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
世界のファクトチェッカーの年次総会がリオで開催/検証7本・関連11本など【今週のファクトチェック】

世界のファクトチェッカーの年次総会がリオで開催/検証7本・関連11本など【今週のファクトチェック】

世界中のファクトチェッカーが集まる年に1度の総会「グローバルファクト」第12回大会がブラジル・リオデジャネイロで開かれました。筆者(古田)は第9回から4年連続の参加。3日間にわたる会合で主なテーマになったのは、アメリカのトランプ第2次政権誕生後のファクトチェックへの逆風、経済的な支援が細る中で、いかに生き残るか、そしてAIをいかに活用するかでした。今後、解説記事で内容を紹介していきます。(古田大輔) ※冒頭にミニコラムをつけるようにしました。ご意見・ご感想などはこちら。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
東京新聞が都議選の開票不正を報じた? そのような記事はない【ファクトチェック】

東京新聞が都議選の開票不正を報じた? そのような記事はない【ファクトチェック】

「東京新聞が都民ファーストの開票不正を暴露した」という情報が拡散しましたが、誤りです。2025年6月27日時点で、そのような報道はありません。 検証対象 2025年6月26日、「6月24日、東京新聞デジタルは都民ファの不正集計疑惑を報じた」「練馬区の開票所で実際に作業していたスタッフによると速報値と実票数が100票近くズレていたんです」という内容の動画がTikTokで拡散した。 この動画は1.2万件以上のいいねを獲得している。この動画はXでも投稿され、2025年6月27日現在、2050件以上リポストされ、表示回数は6.4万回を超える。 投稿について「何で地上波のニュース出ないのかな」「やっぱり不正はあるのだろうやぁ、、参議院選」というコメントの一方で「元記事を貼ってない情報は嘘」という指摘もある。 検証過程 2025年6月22日に投開票を迎えた東京都議会議員選挙は小池百合子都知事が特別顧問を務める都民ファーストの会が31議席を獲得して第1党に返り咲く一方、自民党は30議席から9減らし、過去最低の議席数となった(NHK"都議選2025 開票結果 全42

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は7月22日(火)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0722.peatix.com/ 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的に

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)